アメリカに落語の花を咲かせましょう

〜第39回〜ノマド生活ってどんな生活?

異なるジャンルで活躍する当地の日本人が、不定期交代で等身大の思いをつづる連載。


 

これまでの落語界の長い歴史を考えて、私たち噺(はなし)家は寄席を中心とした劇場や会場での公演、またはスタジオでのテレビ、ラジオの収録で収入を得て生活してきました。この2年以上のコロナ禍で皆それぞれ生活や活動は変わったかと思いますが、僕の生活も大きく変わっています。3年前のアメリカ移住に加えて、ニューヨークのロックダウン、そしていまだに生での落語会を多くできない環境の中で、僕がどのように生きているかをご報告したいと思います。

オンラインにシフト

まず僕はこの度O─1ビザを3年更新する許可が降りました。O─1ビザはアートに関わる仕事しか許可されていませんので、他の仕事はできません。これまで落語以外をしていませんので働けたとしても、僕の能力と根性では無理でしょう。そういうわけもあり、僕の決めたルールもあり、何とか落語で食べています。入門して以来、昇進のたびに芸名を変えていますが、芸名を使わない仕事は一切しないと決めています。では本来の仕事であるライブでの落語会がアメリカではなかなかできない、計画が進まない中で僕はどうしているのでしょうか。

これはズバリ、オンラインでの活動に大きくシフトして、落語もzoomを使った生配信や録画でのアーカイブ配信、そしてオンラインでの落語のクラスを運営することで全米で後進を育成する活動をし、時代の進化で小さくなった録音機器で各地でラジオの録音をし、ラップトップのパソコンで原稿を書いています。僕の現在の収入は明かしませんが、このオンラインによる「どこにいてもWi─Fiがあればできる」仕事で収入の大半を得ています。

それじゃあアメリカ、ニューヨークにいる必要はないではないかと思われるかもしれませんが、僕にとって重要なのは、移住した大きな理由でもありますが、その土地に住み着いてネタを作って演じたい、これに尽きます。僕が日本に住んで英語で落語をする人と全く違うのは、英語を使って生活して英語を使って落語を作っていることです。古典の英語への翻案しかり、英語での新作の制作しかり、僕は今アメリカでニューヨークで使われている感覚、生活している人の感覚、人情味でRAKUGOをしたいのです。そしてニューヨークで創作の刺激を人や街から受けて、伝統的な、古典的な良さを持つ落語をRAKUGOとして進化させたい、そのために高い家賃を払っているのです。

と書きつつ僕は今、日本へ一時帰国しています。一つの目的はビザの更新の手続きですが、ライブでの落語会が20公演弱予定されていて、東北から東京、静岡、京都、沖縄とぐるっと回ってニューヨークへ帰ります。

ハイブリッド生活の
幕開けかも

してみると今回の帰国はオンラインと実際の落語会のハイブリット生活の幕開けかもしれません。アメリカでも徐々にライブができるようになるでしょうから、これからはバックパックに着物と座布団とパソコンとマイクを持って落語会を回るようになるのかしら。基本はニューヨークですが、オンラインで全世界に公演や落語のレッスンを提供しつつ、リアル落語会をしていく生活。僕は英語でも日本語でも落語をしているので、こうやって静岡に滞在しながらオンラインで英語RAKUGOをして、ニシンそばを食べるなんて生活が日常化するのかしら。そういう時代かもしれませんが、そう思えば思うほどニューヨークが恋しくなるのが不思議です。

3年住んで、少し自分の街だって脳が認識しているのでしょうか。どこへ行っても清潔な日本にいつつ、危険で汚くて椅子のお尻が痛いニューヨークの地下鉄がぼんやりと浮かんだりしています。これで7月にアメリカに帰ったらニシンそばや温泉が恋しくなったりして、いつも何か足りない気分になるのかしら。そう考えるとノマド生活は寂しいだけなので、脳みそには「僕はニューヨーカー」って強く刷り込まなくっちゃ。

【次回予告】

次号は、柳家東三楼さんのエッセー第40回をお届けします。

 

 

 

柳家東三楼
(やなぎや・とうざぶろう)

東京都出身。
1999年に3代目・柳家権太楼に入門。
2014年3月に真打昇進、3代目・東三楼を襲名した。
16年に第71回文化庁芸術祭新人賞を受賞。
19年夏よりクイーンズ在住。演出家、脚本家、俳優、大学教員(東亜大学芸術学部客員准教授)としても活動。
紋は丸に三つのくくり猿。出囃子は「靭(うつぼ)猿」。
現在、オンラインでの全米公演ツアーを敢行中。落語のオンラインレッスンあり、詳細はウェブサイトへ。
zabu.site

 

お知らせ
子供、学生、大人向け落語レッスン開講中!
東三楼さんは、現在子供たちや学生、大人へ落語のグループ稽古を提供しています。落語と共に、日本語や日本の文化を一緒に学びましょう!
落語レッスンに参加したい人は、tozaburo.rsv@gmail.com宛にメールでご連絡ください。

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