Akoの真っすぐ俳優道inニューヨーク

Akoの真っすぐ俳優道inニューヨーク 第10回

異なるジャンルで活躍する当地の日本人が、不定期交代で等身大の思いをつづる連載。


先々代の中村鴈治郎(がんじろう)先生主演の名古屋中日劇場での大西信行作「水戸黄門」に出演した時、先代の中村亀鶴(きかく)さんをはじめとする成駒屋系や、市川段四郎さんをはじめとする澤瀉(おもだか)屋系、大和屋の坂東吉弥さんなど、歌舞伎の役者さんがたくさん共演していらした。そこで生涯の師匠となる藤間紫先生と出会ったのである。

紫先生との出会い

私の役は、紫先生の演じる宿屋のおかみの下で働くおもよ。紫先生はその他に段四郎さんと悪事を企むお局さま役の二役を演じていらした。そのお局さまの演技は私が今まで見たことのない、まるで歌舞伎の女方さんが演じていられるような骨太な演技で、いわゆる女優の演技をはるかに超えていらして、心から圧倒されてしまった。それで公演の千秋楽の前に、紫先生に「先生の下で勉強させてください」とお願いし、弟子にしていただいた。

歌舞伎界の方々

その公演がご縁で、歌舞伎界の中村鴈治郎先生をはじめ、市川段四郎さん、故中村亀鶴さん、故坂東吉弥さんともお近づきになり、この中日ホールの公演の後の京都南座公演や鴈治郎先生の次作、名鉄ホールでの「らくだの馬さん」にも出演させていただいた。

その頃、先代の猿之助(現猿翁)さんがおもだか会というファンの方たちへのサービス特別公演で宝塚のパロディーをなさったことがあり、段四郎さんと亀鶴さんが学芸大学にあった私の実家に見えて、金髪のかつらや光物のアクセサリー一式をお貸ししたことも。また、亀鶴さんがお声を掛けてくださり、大阪で一緒に日本振袖始の櫛名田比売(くしなだひめ)を舞わせていただいた。

中村鴈治郎先生には本当にかわいがっていただき、芸者の赤襟の立て方を教えてくださったり、毎回鴈治郎先生の出番前には、楽屋から舞台までお手を取って露払いをさせていただいた。他の歌舞伎の楽屋にお伺いした時にも、「一緒に来なはれ」と花道の揚げ幕まで、お供したこともある。坂東さんには本当によくしていただき、高橋英樹さんの御園座公演で「利根の夕月」という芝居で相手役をさせていただいたり、弟さんの彌十郎(やじゅうろう)さんともその頃からお友達になった。

紫先生の御恩

紫先生は、女ながらに六代目尾上菊五郎さんに師事され、お二人の弟さんも歌舞伎界に入られた。お一人は現歌舞伎俳優の中村東蔵さん、もう一人は舞踊家の故3代目藤間大助先生である。幼い頃から6代目の下で修行し、第2次世界大戦の時は若手の歌舞伎俳優さんが徴兵されたため、歌舞伎俳優が足らず、地方公演などで男性だけの歌舞伎に助っ人として出演された。骨太の女方のような演技がお出来になるのはその故であるようだ。その後私は、西麻布の藤間宗家でお稽古をしていただき、藤間事務所で俳優業のマネージメントもお願いすることになった。

私はTVや舞台の仕事をしながら、紫先生のお嬢さんの高子先生(現2代目藤間勘祖)の歌舞伎の振り付けのお手伝いもさせていただいた。紫先生の自主公演「髑髏尼(どくろに)」や紫先生の息子さんの藤間文彦さん主催の「ひのきの会」にも出演させていただき、本当にたくさん勉強させていただいた。

紫先生からその頃、藤間宗家の師範名執の試験を受けるように勧めていただき、初代藤間勘祖先生と紫先生の前で課題曲を踊り、藤間公紫(こうし)という師範名執名を頂いた。紫先生から教えていただいたさまざまな事柄をはじめ、毎日側で拝見していた先生の日常がその後の私の生き方にどれほど影響を与えたかは言うまでもない。

アメリカで演技の勉強をしたいとご相談した時、他の方々からは「何で今さら?」と言われたが、紫先生だけは「あなたはアメリカの方が合っているかも知れないネ。どうしようもなくなったら帰りの飛行機代は送ってあげるから、思い切って行ってごらん」と背中を押してくださった。

【次回予告】

次号は、柳家東三楼さんのエッセー第38回をお届けします。

 

 

 

 

 

Ako (あこ)

宝塚音楽学校在籍中に毎日音楽コンクール声楽部門4位入賞。
同校を主席卒業後、歌劇団月組(芸名=夏海陽子)で新人賞、歌唱賞など受賞。
退団後は、NHK歌唱コンクールに入賞。
TV・舞台に出演後、ニューヨークに渡る。
2019年にはPrimary Stagesの「GOD SAID THIS」のまさこ役で、ルシル・ローテル主演女優賞にアジア人で初ノミネート。
18年に日米両語の非営利劇団「AMATERASU ZA」を立ち上げ、芸術監督を務める。今年放映予定のFXのTVシリーズ「SHOGUN」への出演も決定。

ako-actress.com

 

 

お知らせ
新作公演、準備中!

Akoさん率いる非営利劇団「AMATERASU ZA」は、2022年後半に新作舞台「忠臣蔵 四十七士」を上演予定です。現在、絶賛稽古中! 続報はウェブサイト(amaterasuza.org)を参照ください。また、同劇団はウェブサイトで寄付も受け付けています。

 

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