アメリカに落語の花を咲かせましょう

〜第35回〜 天狗裁きと夢

異なるジャンルで活躍する当地の日本人が、不定期交代で等身大の思いをつづる連載。


アメリカでの初めての公演は、2018年3月のニューヨークでした。あれから4年、移住してから3年、初めてのビザ更新になります。

僕のビザはO─1といって、研究者やアーティスト、スポーツ選手に発行されます。今回も4通の推薦状にスポンサー、さまざまな会社、学校からのオファーレター、3年の予定表、300枚に及ぶポートフォリオ(写真のもの)と、移民局に僕という人間、表現者がアメリカに住んで活動する意味を証明するわけです。今回は更新ということで最初の申請よりは幾分楽でしたが、3年間活動した分、ポートフォリオは大変でした。

追い続けている僕の夢

移住当初にアメリカンドリームについて言われたことがあります。それはアメリカに移住して車と家を持つことだと。僕にとってはコメディアンとしてスーパースターになることですが、その前にいまだ車も家ももちろん持てていません。

この3年で、さくらラジオで「三代目柳家東三楼のアメリカよもやま噺(ばなし)」のレギュラーパーソナリティー、こちらの「NYジャピオン」、サンフランシスコの情報誌「ベイスポ」、日本語新聞「ハワイ報知」とレギュラーで連載を持たせていただき、また全米の会社、機関、学校からお声を掛けていただき、芸能活動だけで生活できるようになりました。そして今、考えます僕のアメリカンドリーム、夢は何でしょうか。

僕は落語を「RAKUGO」として広げるためにアメリカに移住してきました。ですのでアメリカを出発点として、RAKUGOを世界中に広げるのが夢でしょう。

前回ご紹介した「みんなdeらくご」「ひとりdeらくご」、これは僕のこの夢をかなえてくれる一番の手法じゃないかと思っていますので、今回もご紹介させていただきます。

現在、大人のクラスとアメリカの子供中級クラスでは「天狗(てんぐ)裁き」を「みんなdeらくご」しています。この噺には、八五郎、おかみさん、八五郎の友人、大家さん、お奉行さま、天狗とさまざまなキャラクターが出てきますので、「みんなdeらくご」をするのにはもってこいです。

まず初めは僕が演じている「天狗裁き」の落語を見るところから始まります。落語として純粋に味わってもらう。そして、ここからがプロの稽古とは違うところで、僕が書いた「ひとりdeらくご」にも「みんなdeらくご」にも使える「天狗裁き」の台本を精読します。ここで僕は人物を演じながら、アクセントや背景にある文化の知識や部屋の配置からの舞台設定、上下(かみしも)の付け方を解説します。その中でどうやって役や噺のテーマを自由に考えるかを気持ちの中に持ってもらいます。

稽古は遊び感覚で

僕は自分が教わった師匠のやる通りにプロの稽古を素人さんにやることはなくて、楽しく遊び感覚で演じることを重視していますので、「自由に」というところが何より大切です。そして芸事はお稽古が厳しくて、師匠からの小言や駄目出しが厳しいイメージがありますが、僕はお弟子さんの良いところを褒めることに力を入れて、「駄目」はあくまでも参考、アドバイスというニュアンスで行います。

しかしながら僕は基礎、基本を大事にしていますので、地味で面白くない基礎的なこと(技術や考え方)は、僕自身が一人のプレーヤーとして大事にしていることとして伝えることで、意識して身に付けてもらうようにしています。

精読の後はお奉行さま、天狗をいきなりやってみます。八五郎や友人、おかみさん、大家さんは典型としてそれまで経験があるし、想像しやすいので、真新しい役で気を引こうという作戦です。扇子をそれらしく使って子供も大人も自分が思うお奉行さま、天狗を演じていきます。それぞれが個性的な役作りをして笑いが生まれます。そして「天狗裁き」の最後のせりふ「お前さん、どんな夢見てるんだい」にたどりつきます。どんな夢を見てるんだい。いいせりふです。

次回は現在、大人と子供で落語で交流している「みんなdeらくご」の「天狗裁き」の実際の模様をもう少しお話しいたします。

【次回予告】

次号のエッセーは休載となります。

 

 

 

柳家東三楼
(やなぎや・とうざぶろう)

東京都出身。
1999年に3代目・柳家権太楼に入門。
2014年3月に真打昇進、3代目・東三楼を襲名した。
16年に第71回文化庁芸術祭新人賞を受賞。
19年夏よりクイーンズ在住。演出家、脚本家、俳優、大学教員(東亜大学芸術学部客員准教授)としても活動。
紋は丸に三つのくくり猿。出囃子は「靭(うつぼ)猿」。
現在、オンラインでの全米公演ツアーを敢行中。落語のオンラインレッスンあり、詳細はウェブサイトへ。
zabu.site

 

お知らせ
子供、学生、大人向け落語レッスン開講中!
東三楼さんは、現在子供たちや学生、大人へ落語のグループ稽古を提供しています。落語と共に、日本語や日本の文化を一緒に学びましょう!
落語レッスンに参加したい人は、tozaburo.rsv@gmail.com宛にメールでご連絡ください。

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