アメリカに落語の花を咲かせましょう

〜第34回〜 らくごdeあそぼ

異なるジャンルで活躍する当地の日本人が、不定期交代で等身大の思いをつづる連載。


世代を超えて遊べるアイテムとして落語を提唱しておりますが、今回はその中から、「みんなdeらくご」をご紹介します。日本に住んでおりました時に柳家東三楼一座を旗揚げし、私たち落語家と俳優で落語をさまざまな形で表現する活動をしていました。

落語としては当たり前の一人で演じる「ひとりdeらくご」、落語を大勢の出演者で構成して演劇、朗読といった手法で表現する「みんなdeらくご」と名付けて公演しました。

現在、ざぶとん亭の皆さんには当たり前の落語の方法「ひとりdeらくご」と、クラス内で役を振って「みんなdeらくご」をする手法と両方取り入れています。「みんなdeらくご」は世代や性別などあらゆるものを超えてみんなで楽しめる遊びだと考えています。

落語リテラシーの高い人材を育成するために

このコロナ禍で、オンラインでの交流が発達したのが幸いしています。これまではインパーソンで稽古場という限られた場所限定で「みんなdeらくご」をしてきました。

しかも公演を目的とし、プロの俳優、落語家で構成して制作していました。まさに作品を制作するように演出し、プロデュースして公演していたのです。

RAKUGO Association of AMERICAで僕がざぶとん亭一門を作り、目指しているのは、アメリカでの後進の育成と、落語を十分に享受できる落語リテラシーの高い人の創出です。

僕というプロから直接、落語に関するあらゆる知識や周辺情報を受け取り、落語を自ら演じることで演者の視点、作る・演じるという目線から「落語の楽しみ方」を体験していく、これが基本的な目的です。

そこでこれまでプロの噺(はなし)家や俳優と経験してきた「みんなdeらくご」の手法を一般の大人から子供まで、楽しく遊びの中で体験できる方法に改良を続けて、現在の型になりました。

具体的に見ていきましょう。先ほど述べましたように、オンラインの発達のおかげでこれまでZOOMを使いながらアメリカ全土、またはフランス、日本の方のクラスを運営してきました。そして大人のクラス、子供のクラスとありますが、発表会では全てのクラスの方で国境、世代を超えて行われます。

その中で今のところは「ひとりdeらくご」をするお稽古の一環としての「みんなdeらくご」と、純粋に仲間と落語を通して遊ぶ、楽しむための「みんなdeらくご」の二通りがあります。

演目を深く理解していくための3段階

まず第一ステップは台本の理解です。僕が古典落語として演じられている演目を演劇用、朗読用に書き換えた台本を作るところから始まります。一人で演じる用にできている落語は右を向いて左を向くとすぐに人物が変われるようにできています。ある意味で芸の上での矛盾、嘘を含みつつ芸人の腕で成立させている要素があります。そういった部分に言葉を埋めたり、削ったりして再構成して「みんなde」を演じやすく変えていきます。

第二段階はその台本を演じる皆さんの前で丁寧に解説をしながら僕が読んでいきます。読むと演じるの間くらいでしょうか。感情は控えめに込めつつ、アクセントや落語独特の表現に意識の中心を向けて進めていきます。

第三段階はとりあえず役を振って、みんなで読んでみます。その時に役、例えば子供の役だったら「小僧、丁稚(でっち)」なのか「家庭の子供」なのかという属性から状況の気持ちを考えます。その背景の知識として、昔の子供は丁稚に出されて苦労したとか、お店のシステムとか、師弟制度など「落語の周辺」にある文化的な知識を伝えていきます。

例えば「時そば」でしたら、現在との時刻の数え方の違いや屋台の構造といった江戸時代独特の文化の話から、そば粉、うどん粉の話をしてそばのつなぎの話までします。

そうして演目にまつわる知識と共に、そば屋がどういう職業で、どういう話し方をするんだろうかと考えていきます。現在は大人、子供のクラスで「天狗(てんぐ)裁き」を「みんなdeらくご」しています。次回は「天狗裁き」を例にとって、もう少しお話いたします。

【次回予告】

次号は、柳家東三楼さんのエッセー第35回をお届けします。

 

 

 

柳家東三楼
(やなぎや・とうざぶろう)

東京都出身。
1999年に3代目・柳家権太楼に入門。
2014年3月に真打昇進、3代目・東三楼を襲名した。
16年に第71回文化庁芸術祭新人賞を受賞。
19年夏よりクイーンズ在住。演出家、脚本家、俳優、大学教員(東亜大学芸術学部客員准教授)としても活動。
紋は丸に三つのくくり猿。出囃子は「靭(うつぼ)猿」。
現在、オンラインでの全米公演ツアーを敢行中。落語のオンラインレッスンあり、詳細はウェブサイトへ。
zabu.site

 

 

 

お知らせ
子供、学生、大人向け落語レッスン開講中!
東三楼さんは、現在子供たちや学生、大人へ落語のグループ稽古を提供しています。落語と共に、日本語や日本の文化を一緒に学びましょう!
落語レッスンに参加したい人は、tozaburo.rsv@gmail.com宛にメールでご連絡ください。

関連記事

NYジャピオン 最新号

Vol. 1244

オーェックしよ

コロナ禍で飲食店の入れ替わりが激しかったニューヨーク。パン屋においても新店が続々とオープンしている最近、こだわりのサワードウ生地のパンや個性的なクロワッサン、日本スタイルのサンドイッチなどが話題だ。今号では、2022年から今年にかけてオープンした注目のベーカリーを一挙紹介。

Vol. 1243

お引越し

新年度スタートの今頃から初夏にかけては帰国や転勤、子供の独立などさまざまな引越しが街中で繰り広げられる。一方で、米国での引越しには、遅延、破損などトラブルがつきもの、とも言われる。話題の米系業者への独占取材をはじめ、安心して引越しするための「すぐに役立つ」アドバイスや心得をまとめた。