今年9月にアラ&
困難に立ち向かい、今を全力で生きる日本人ビジネスパーソン。名刺交換しただけでは見えてこない、彼らの「仕事の流儀」を取材します。
ピカソ、バスキア、日本人では草間彌生、村上隆など、名だたるアーティストの作品が億単位で落札されてきた、国際的な美術品オークションハウスとして名高いクリスティーズ。そこに由賀子さんの作品が選ばれたことは、本人にとっては待ちに待ったとも言える吉報だったという。
「クリスティーズに出品されることは、アーティストにしてみたら夢のまた夢です。目の前でスタジオから作品が運び出されるのを見るまでは、自分でも正直半信半疑でした」と当時の気持ちを振り返る。
運命を変えた分岐点
作品が生まれたのはパンデミック中だった。帰らぬ人となってしまった親しい知人が生前、入院中に残した「画家としての信念を曲げず、次の世代に影響を与えるような作品を作っていってほしい」という言葉が強く心に響いたという由賀子さん。その言葉をきっかけに、自分のためではなく、苦しく大変な思いをしている誰かの心に寄り添い、「絵を見て少しでも癒されてくれたら」と創作のモチベーションに変化が起きたのだそう。そんな思いを紡ぐように丹念に描き上げたその作品こそが、今回クリスティーズに選ばれた一点だった。
「16年間たくさんの絵を描いてきましたが、ここにきて日の目を浴びたのが、人とのつながりを考え抜いたこの絵だったというのは、私にとっても大きな意味がありました。これまでの努力が報われたように思いましたね」。
パンデミック前からも“幸せ”な絵を描くことが得意だったという由賀子さん。その作風は今も変わらないが、当時の経験を経て他人を思いやる強さも加わった。「描き手が込めた思いは、見る人にもちゃんと伝わるんですよね」。
抽象画を中心とした由賀子さんの作品集には、かわいらしい動物の絵も並ぶ。「何を描くのも楽しいんです。依頼されればペットの絵も喜んで描きますよ。動物の絵を描くとこちらまで幸せな気持ちになるんですよね」。
「苦悩がないアーティストには良い作品が生み出せない」とはよく言うが、由賀子さんは全く逆のタイプだ。「画家も心が豊かで幸せなことが大事だと思うんです。おいしいものを食べたりきれいなものを見たり、私の原動力はそんな日々の小さな幸せにあるんです」と優しくほほ笑む。
「努力あるのみ」でここまできた
物心ついた時から「努力あるのみ」が座右の銘だったという由賀子さんは、これまで惜しみなく努力してきた。「才能は誰でも持っている。ただ努力をしないとその才能は開花しない」というのが由賀子さんの持論だ。
セントラルパークを散歩したり、建物に触れたり、コツコツと積み重ねてきたこの場所、ニューヨークの空気に触れることが創作のインスピレーションになってきたという由賀子さん。次なる目標を聞くと、由賀子さんにとって特別な思いのある場所であるメトロポリタン美術館に作品が展示されることなのだという。「100年後か200年後かわからないけど、後世の人に感動してもらえる作品を残していきたいです」。何事も有言実行でやってきた由賀子さんだからこそ、きっとこの夢もかなえてしまうのだろうと思わせられる、意志の強さがその小柄な体にはみなぎっていた。
由賀子さん
画家
来米年: 2006年
出身地: 青森県
好きなもの・こと: 部屋に花を飾ること
特技: 何事もポジティブに捉えること
青森県弘前市出身。
アムステルダム、シンガポールなどの海外生活を経て、2006年からニューヨークに活動の場を移す。
アート・スチューデンツ・リーグにて絵画ドローイングの講師も経験。ニューヨーク日本人美術家協会(JAANY)所属。
3月26日からオークションハウスのクリスティーズに作品が出品される。
yukakoart.com