ハートに刺さるニュース解説

ロシアによるウクライナ侵攻

ウクライナ軍事侵攻
日本でも関心高まる

これを執筆している3月7日は、日本に滞在し、ロシアによるウクライナ侵攻のニュースにくぎ付けになっている。さらに、日本人や日本の団体が、かつて見なかったほどに「ウクライナを支えよう」「戦争反対」で団結している姿を見て驚いている。

2月24日(現地時間)、ロシアがウクライナ各地への砲撃を始めた。直後の26日(日本時間)と1週間後の3月5日に東京・渋谷駅前で、ウクライナ人、ロシア人を中心に「侵略反対」のデモが行われ、日本人も多く参加した。

5日に新宿で開かれた「No War 0305」のライブ中継によると、参加者は一時5000人を超えたという。日本で1000人を超えるデモは異例のこと。しかも、国内問題ではなく、海外で起きている戦争に抗議するものだ。

また、駐日ウクライナ大使館が、日本の銀行に緊急に開いた「エンバシーオブウクライナ」(三菱UFJ銀行広尾支店・普通口座0972597)には、約15万人の日本人が寄付し、40億円近くが集まった(3月7日現在)。同大使館は、人道支援物資をウクライナに送る団体に送金したという。

岡山市で開かれていたロシアへの抗議デモ(筆者撮影)

 

難民の受け入れを要請
多数の署名が集まる

150万人以上とされるウクライナ難民への関心も高まっている。オンライン署名サイトChange.orgが日本政府への要請として行っている「♯ウクライナ難民の多様な受け入れに賛成します」は、3月1日に始まり、3日間で5万筆近くを集めた。7日時点で、目標の10万筆に迫る7万5000筆が集まっている。Change.orgは、「これまで難民関連で日本で展開したオンライン署名で、これほどの速度で賛同が集まったものは見たことがない」としている。

一方、神奈川県議会は7日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に強く抗議するとして、即時撤退を求める決議を全会一致で可決した。決議は、「武力の行使により、市民の生命・財産・自由を奪う行為は国際社会の平和と秩序、安全を脅かし、到底容認できるものではない」と強く批判。NHKによると、神奈川県内の市町議会も同様の決議をしているという。

日本国内の盛り上がり
関心を集める理由は

なぜここまでに日本国内がウクライナ支援に盛り上がっているのか。ロシアの行為が、国際法と人権を犯す許し難いものであることは自明である。しかし、過去の内戦や紛争で、ここまで関心は高くならなかった。それは、その多くが独裁国家などで起きているためであろう。犠牲となっている市民は、支配者や征服者から身を守ろうとするため、なかなか悲惨な状況をソーシャルメディアなどで伝えることができない。

一方、ウクライナは民主主義国家である。戦略核兵器の使用までちらつかせる、プーチン・ロシア大統領がウクライナを占領したら、世界における自由民主主義が揺らぐとまで、欧米や日本は考えている。そのためウクライナは、政治思想としての重要なとりでなのである。

またウクライナからは、ゼレンスキー大統領をはじめ、多くの市民が現状をソーシャルメディアで発信。西側諸国のメディアもこぞって現地入りし、リアルタイムで、ロシアを許しがたいと思わせる映像を送ってくる。つまり、日本人を含め世界の人が、ウクライナ市民が置かれている状況を、リアルに感じることができるのだ。

長引くロシアの侵略
抵抗活動に賞賛の声

著名な歴史学者ユバル・ノア・ハラリは、英紙ガーディアンに「プーチンが歴史的敗北に向かって突き進んでいるように見える」と題するオピニオンを寄稿し、こう指摘した。

「ウクライナの人々が一心に抵抗活動を繰り広げ、その姿が全世界から称賛されているのだ。ウクライナの人々が、戦争に勝ちつつあると言ってもいいほどである」。

「憎しみは感情のなかで最もひどいものだ。だが、虐げられた国民にとって憎しみは隠された宝でもある。この宝を心の奥深くに隠すからこそ、抵抗活動は何世代も続けられるのだ」。

ロシアの侵略とウクライナの抵抗のぶつかりは長期化し、ロシアが勝つという分析は少なくない。しかし、ウクライナと共にある多くの国の「団結」が、たとえ時間がかかっても勝つと信じたい。

 

 

 

 

津山恵子
ジャーナリスト。
「アエラ」などにニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOなどにインタビュー。
近書に「現代アメリカ政治とメディア」(東洋経済新報社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

 

 

 

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