アメリカに落語の花を咲かせましょう

〜第32回〜 落語で遊ぼう

異なるジャンルで活躍する当地の日本人が、不定期交代で等身大の思いをつづる連載。


前回書きました、ざぶとん亭一門で最年少のすいかちゃんと、一番お姉さんのみかんちゃんのお話の続きです。

なんと今月誕生日を迎えるみかんちゃんにすいかちゃんがお手紙を書きました。こうやって文字だけで「すいかちゃんはみかんちゃんにお手紙を書きました」って読むと、「シロヤギさんがお手紙食べた」みたいな童謡とかおとぎ話とかに聞こえますね。日本ではみかんは冬、すいかは夏の果物なので、その対比も面白いです。

実は日本のクラスに「いよかん」ちゃんがいて、彼女は最初「みかん」を希望でしたが、僕が「みかんちゃん」はもういらっしゃるんですよねと言うとお母さまが「じゃあ、いよかんでいいんじゃない」と言い、「それでいいです」となんともあっさり「いよかん」になりました。僕の同期で古今亭いち五(現在五代目古今亭志ん好)がいましたが、果物の名前は親しみが湧きます。

落語は国も州も年齢をも超える

今回の一門の発表会を通して改めて感じ入ったのは、落語が世代を超えるということです。

例えば、大人と子供が同じ目標に向かって何かをするということは、なかなか見つかりません。知識の差も体力の差もあり、等しく楽しむ、競うというのは難しいです。ビデオゲームもある程度以上の年齢の方は目が辛かったり、指がついていかなかったりするでしょう。今回の落語の発表会では4歳をはじめ小学生、中学生からみかんちゃんの世代まで幅広く参加しました。州をまたぎ、国をまたぎ、年齢差を超えて皆で「覚えた落語を頑張ってやろう」「落語で人を笑わせよう」「落語を楽しく演じよう」との合言葉で頑張ったわけです。

アメリカにいる子供たち(孫たち)を日本にいるおじいちゃん、おばあちゃんや親戚が見て、大変に喜んだそうです。落語はやはり年齢が進むほど理解も親しみも深まる芸ですが、その芸を孫が演じるというのは喜びでしょう。一門の皆さんの日常の親子の会話にまず落語があります。

 

遊びながら学べる新たなメソッド

僕のクラスでは落語をする時に、まず初めに役柄を一人一役で演劇や朗読の手法で人物を掘り下げるところから始めます。これはこれまで長く続いてきた落語の長い歴史では無かった手法で、僕が今作っている「落語で遊ぼう」という、皆で遊びながら落語、日本語、そして日本の文化を身に付けようというメソッドの一環です。レッスンで演じた小噺(こばなし)や落語の役は兄弟や家族でもできます。お母さんやお父さんが相手役になって一緒に落語が楽しめます。絵本の読み聞かせなどは親が子供に与えるという一方向ですが、「落語で遊ぼう」ですと、何人でも一緒に笑いながら、役を変えながら、「今度は私が与太郎やる!」といったように遊びとしていろいろなことを学べます。ですから、落語は世代を超えるのです。

今僕が作っているプログラムは日本語のみならず、英語や他の言語で落語を一人で、または数人で遊びながら演じることで、「笑いを作る一人芸」または「伝統芸の中の人物から抽象化した人情」を表現、需要できる教授法です。人間の気持ちの機微に笑いや悲しみ、親子の情や男女の駆け引きなどを重ね合わせながら、知的な、そして体を使った遊びを作ることができる、それが落語の持つ新しい側面だと考えています。

この日本の独自の伝統芸の落語を、新しいイノベーティブな手法で世界に伝え広げるのが僕の人生の使命です。子供も大人も、そして国も何もかも超えて、皆で「落語で遊ぶ」。その活動が僕が行っている「日本の落語を世界の落語へ」の活動です。

今回、みかんちゃんとすいかちゃんの間に生まれた落語を通しての交流は、僕のミッションにとってとても大きな喜びであるだけでなく、これからの自信、そして指針になります。

読者の皆さんも落語を通して世界の人々とつながりませんか。「落語で遊ぼう」。これが合言葉です。

【次回予告】

次号は、Akoさんのエッセー第10回をお届けします。

 

 

 

 

柳家東三楼
(やなぎや・とうざぶろう)

東京都出身。
1999年に3代目・柳家権太楼に入門。
2014年3月に真打昇進、3代目・東三楼を襲名した。
16年に第71回文化庁芸術祭新人賞を受賞。
19年夏よりクイーンズ在住。演出家、脚本家、俳優、大学教員(東亜大学芸術学部客員准教授)としても活動。
紋は丸に三つのくくり猿。出囃子は「靭(うつぼ)猿」。
現在、オンラインでの全米公演ツアーを敢行中。落語のオンラインレッスンあり、詳細はウェブサイトへ。
zabu.site

 

 

 

お知らせ
子供、学生、大人向け落語レッスン開講中!
東三楼さんは、現在子供たちや学生、大人へ落語のグループ稽古を提供しています。落語と共に、日本語や日本の文化を一緒に学びましょう!
落語レッスンに参加したい人は、tozaburo.rsv@gmail.com宛にメールでご連絡ください。

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