ハートに刺さるニュース解説

中間選挙に向けて

中間選挙を巡る不安
混乱や暴動の可能性も

今年は、4年ごとにある米大統領選挙の半ばの年に行われる中間選挙の年。2024年大統領選挙の結果を左右するビッグイベントだ。しかし、投票や集票を巡り混乱や暴動が起きる可能性もあり、早くも不安が高まっている。

「昨年1月6日の連邦議会議事堂事件は、今も続いている」。

事件から1年経った今年1月5日にアップされたポッドキャストで、ダン・キルディ下院議員(中西部ミシガン州選出)は、こう警鐘を鳴らした。聞き手は、10代の頃からの幼なじみだという、ドキュメンタリー映画監督のマイケル・ムーア氏だ。

キルディ氏は昨年、暴徒が議事堂を襲った際に暴徒が攻め寄る議場内に身を潜め、ムーア氏に電話した。ムーア氏は、電話越しに暴徒が議場のドアをバン、バン、と叩く音、そして警官が発砲した銃声を聞いていた。幼なじみとその同僚議員や警官の命が、危険にさらされている実況を電話越しに聞き、「二度とこんな思いはしたくない」と語っている。

2020年大統領選・予備選挙のグッズ。市民の心をつかむための道具だ(筆者撮影)

 

議事堂襲撃事件の傷痕
有権者の不安が募る

この議事堂襲撃事件は、20年の大統領選挙が引き金だった。バイデン民主党候補(当時)が勝利した選挙結果に対し、トランプ大統領(当時)は「(票が)盗まれた」と主張。バイデン氏の勝利を承認する上下院合同会議が行われる1月6日に「すごいことが起きる。ワシントンに集合せよ」とソーシャルメディアを使って何度も支持者に呼び掛けていた。

「1月6日が解き放ったものは、暴力に訴えて政治的権力を手に入れようという動きだ」とキルディ議員。多くの市民の思いを共有している。

つまり、米最大の「選挙」イベントで、民主主義の象徴である議会議事堂が襲われるのであれば、今後は、どんな選挙でも、暴動が起きる可能性を否定できないのだ。

今年11月8日投開票の中間選挙を迎えるにあたり、多くの有権者が「票はきちんとカウントされるのか」「投票所や議事堂で暴動が起きるのか」と不安に思うのは無理もない。

州知事候補の問題発言
混乱の再発を示唆か

キルディ議員の地元、ミシガン州は激戦州で、中間選挙の同州知事候補者ライアン・ケリー氏(共和党)の発言が問題となった。米メディアによると、投票所職員となる可能性がある市民を対象とした集会での出来事だ。

「投票マシンで何か気に入らないことが起きていたら、何事かが起きていると思ったら、壁からコンセントを外せ」。

同様に、同州上院議員候補マイク・デトマー氏は、別の集会でこう言った。「票が盗まれた」とするトランプ氏を支持する市民との集会だった。

「理想は、(選挙を)平和に行うことだ。(中略)しかし、なすべきことを問われた場合、(投票所に)武器を持って集合せよ」。

二人の発言は、参加者が撮影したビデオがソーシャルメディアによって偶然明らかになったものだ。しかし、州知事候補者がこうした発言をしているのであれば、州議会議員、市町村議員、地方自治体の司法長官や会計検査官、保安官などありとあらゆる選出役職の候補者が、同じメッセージを発している可能性は大きい。

トランプ氏の発言力
中間選挙への影響は

トランプ氏の影響力は、今も絶大である。1・6の直後、ツイッターなどソーシャルメディアの同氏のアカウントは凍結された。しかし、「第45代大統領 ドナルド・トランプからの声明」と題するメールを1日に数本発信。「盗まれた選挙」「大きな嘘」という言葉を繰り返し、それに共鳴した下院議員らの発言を漏らさずメールで取り上げ、彼らをスターに祭り上げているのだ。

今回の中間選挙で選ばれる数千人の州や、地方自治体議員・要職などを抑え、24年の大統領選挙で政権を奪回したい共和党は、この「トランプのお墨付き」にあやかろうと必死なのである。

バイデン政権にとって、逆風も強い。新型コロナウイルスの新変異株オミクロンの猛威で、米社会は混乱状態だ。

中間選挙を巡り、何かが起きるかもしれない——。そうした社会不安が、投開票日である11月8日に向けて高まっている。

 

 

 

 

津山恵子
ジャーナリスト。
「アエラ」などにニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOなどにインタビュー。
近書に「現代アメリカ政治とメディア」(東洋経済新報社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

 

 

 

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