サミュエル・&#
困難に立ち向かい、今を全力で生きる日本人ビジネスパーソン。名刺交換しただけでは見えてこない、彼らの「仕事の流儀」を取材します。
※これまでのビジネスインタビューのアーカイブは、nyjapion.comで読めます。
美容室「GARDEN」で13年のキャリアを積んだ山岸貴史さんが、ニューヨーク赴任を希望したのは、「日本で1億2000万人を相手にするより、世界中から人が集まる場所で60億人を相手に仕事をしてみたい」という思いからだったそう。そして念願かなって来米したのが2014年だった。
人気美容師として、日本では2人のアシスタントと共に1日20人以上ものお客をこなしていた山岸さんだが、ニューヨーク店では少数精鋭のため一人で施術する接客スタイルに変更。お客との向き合い方は随分変わったという。
合理的に変化した考え方
何事も合理的に物事が進められるニューヨークの空気に触れ、山岸さんもこれまでの“当たり前”だと思っていたやり方に疑問を持つように。毎日の朝礼など「実は不要なのでは?」と思える時間を削ぎ落とすようにしていった。
「その分、お客さまとの時間に集中できるようになりました。1対1でもっと強くコネクトしたいという気持ちがこっちに来て強くなったんです」。チームでの働き方を経験してきたからこそ、お客一人一人と向き合う大切さに改めて気付いた山岸さん。その結果、「何より既存の顧客を大事にすることが、クチコミで新たなお客が増えることにつながる」という持論にも行き着いた。
また、「できないことはできない」と素直に認める潔さがあるのも山岸さんの強みだ。人種が変わると髪質も文化も変わる。これまでの手法が明らかに通用しない髪質やオーダーであれば、進んで他のスタイリストや店舗を推薦するという。さらに、ちょっとしたディナー前など美容院に行くほどではないという場面においては、ブロー専門店のブローバーをおすすめしたりすることもある。
「上手な人にやってもらった方がお客さまも納得がいくし、対価を支払う価値がある。うちで囲い込んでもお客さまのためにならないし、必要な時に頼ってくれたらうれしいですが、状況に合わせて利便性が高い店を都度選んでもらっていいと思うんです」と話す表情は穏やかだ。
現場に立つことが一番の喜び
そんな本当の意味での“顧客視点”を掲げる山岸さんの元には、アメリカ全土、さらにはヨーロッパ、南米、アフリカ大陸と世界中からお客がやって来るそう。
「わざわざ大陸を超えて来てもらえるのはありがたいですよね。そんなお客さまに笑顔になって帰ってもらえることを日々心掛けています」。
サロン終わりには日本の本社とのミーティングを行うなど、マネジメントする立場でもあるが、現場でお客を手掛けている時が一番楽しいと話す山岸さん。
在住歴は7年を超え、当初は全く歯が立たなかった英会話も、今では仕上がりイメージを流ちょうに説明できるほどに上達した。日本で暮らす家族とのビデオ通話の時間を心の支えにしながら、今後は、自身が挑戦してきたように海外進出を目指す美容師の手助けもしていきたいという。
現場に立ち続け、「美容師としての自分の枠をさらに広げていきたい」と前を見据える、山岸さんのニューヨークでの挑戦はまだまだ続きそうだ。
山岸貴史さん
「GARDEN New York」マネージャー兼スタイリスト
来米年: 2014年
出身地: 栃木県
好きなもの・こと: バックパック旅
特技: カットで笑顔を作ること
人気美容室の「GARDEN」表参道・原宿店で6年、銀座店で7年勤務後、2014年に来米。
「GARDEN New York」の立ち上げから現在まで所属。年に2度帰国し、「GARDEN Tokyo」で働きながら日本のトレンドも取り入れている。
18年にニューヨーク店のマネージャーに就任。
Instagram: @taka_nyc_garden