ニューヨーク仕事人名鑑

ニューヨーク仕事人名鑑 #38 佐々木由紀さん

困難に立ち向かい、今を全力で生きる日本人ビジネスパーソン。名刺交換しただけでは見えてこない、彼らの「仕事の流儀」を取材します。

※これまでのビジネスインタビューのアーカイブは、nyjapion.comで読めます。


佐々木由紀さんが日本語学園に携わるようになったのは、来米直後、BJAFAが主催する運動会に子供と一緒に参加したことがきっかけだった。日本と変わらぬ運動会を目の当たりにし、「まさかブルックリンで見られるなんて」と感動し、2015年ごろから事務局員として手伝うようになったのが始まりだ。

土曜日だけ開校する同学園の運営は、教員やスタッフも日本人の父母が務める保護者参加型。そんな先生と保護者をつなぐ連絡業務に加え、授業に向けた教科書や資料の準備など、平日も佐々木さんのやることは尽きない。

未来に咲くかもしれない種をまく

当地で生まれ育った子供たちに向けて作られた同学園の教材やカリキュラムは少し特殊だ。例えば、家庭でしか日本語話者と話すことがない子供たちにとっては、日本語の「ふわふわ」や「ざらざら」の感覚がわからないことも。また、こたつを見たことがなかったり、豆腐が大豆からできていることを知らなかったりもする。そこでクラスでは、実際に触って感覚を学べる本を制作したり、豆腐作りをしたりと、教材に向かうだけでなく、一つ一つの言葉を分解していく作業を重視しているという。

「日本語の読み書きの習得はもちろん大切ですが、空手や書道など文化体験も大事にしています。今は興味を持たなくても、いつかそれが才能ややりたいこととして咲くかもしれない。咲くタイミングは子供たちに任せて、まずその種をまくことが私たちの仕事だと思っています」。

また、佐々木さんが子供たちに寄り添うのは、自身の経験が影響しているという。両親の転勤に伴い、マレーシア、大阪、台湾、イタリアなど5年周期で住む国が変わる幼少期を過ごしてきた。自身のルーツに悩むこともあったが、日本でマネジメント事務所に14年間勤務した中で、初めて「自分の居場所」を実感したのだそう。

「娘や子供たちにとってここが一つの居場所になればという気持ちが強くあります。人って絶対的な居場所があると頑張れますよね」。

プリKから高校生までを預かる同学園では、成長とともに学園を辞めてしまう子供もいるが、将来彼らが自分のアイデンティティーで悩む時、ここでの時間を心のよりどころとして思い出してもらえることが佐々木さんの願いだ。

天職だと気付いた“調整役”の仕事

アーティストをマネジメントしていた日本での仕事同様、再びプレーヤーをサポートする職に就いた佐々木さん。「自分が前に出るというよりも、裏方で支える方が性に合っているんです」。先生と保護者の双方に耳を傾け、いかにスムーズに授業できるかを調整するのが楽しいという。

コロナ禍では、校舎に気軽に訪れることができなくなり、保護者の委員会活動が制限されたことで連絡役である佐々木さんの出番も増えた。昨年9月からは対面授業を再開し、授業に使う教材のセットアップも毎週行うように。

自身も異国の地で娘を育てつつ慌ただしい日々を送りながらも、「保護者の方たちと一緒に子育てしてきた感覚です」とほほ笑む佐々木さんは、今日もまた、子供たち、先生、保護者の思いに寄り添いながら仕事に向かう。

 

 

佐々木由紀さん

「ブルックリン日本語学園」理事

来米年: 2014年
出身地: 神奈川県
好きなもの・こと: 泳ぐこと、料理すること
特技: 寝ること

親の転勤に伴い、幼少期はさまざまな国や都市で過ごす。日本に帰国後、アーティストを抱えるマネジメントオフィスで14年間勤務。2014年、家族と共に渡米。娘のプリKへの入学を機にコミュニティースクールのブルックリン日本語学園に携わる。18年、同校の母体となるBJAFAの理事に就任。bjafa.org/nihongogakuen

 

 

関連記事

NYジャピオン 最新号

Vol. 1240

今年のセントパトリックデーはイル文化を探索しよう

3月17日(土)のセントパトリックデー(Saint Patrick’s Day。以下:聖パトリックデー)が近づくとニューヨークの街中が緑色の装飾で活気づく。一足先に春の芽吹きを感じさせるこの記念日は、アイルランドの血を引く人にとっては「盆暮れ」と同じくらい大事。大人も子供も大はしゃぎでパレード見物やアイリッシュパブに出かける。聖パトリックデーとアイルランド魂の真髄を紹介する。