Akoの真っすぐ俳優道inニューヨーク

Akoの真っすぐ俳優道inニューヨーク 第9回

異なるジャンルで活躍する当地の日本人が、不定期交代で等身大の思いをつづる連載。


宝塚は客席で見ていると、夢いっぱいの美しい舞台だが、裏では早変わりの連続で、実は、舞台で歌ったり踊ったりしている方が楽なのだ。

舞台へ出てホッとする

特にショーの場合は、前もって次に着る衣装の真ん中に靴を置いておいて、舞台から引っ込んでくると、靴に足を突っ込むと同時に、衣装のジッパーやボタンを衣装さんが上げてくれる。その間にアクセサリーやカツラを取り替え、ピンで固定して、次の早変わりの準備をして即舞台へ走ってゆく。

これが1時間半のショーの間ずっと続く。ある程度の上級生は上手・下手にある早変わり室が使えるが、下級生の間は花道の裏側の廊下で、衣装さんの手が足りない時は、お互いに助け合って早変わりをする。

ショーが終わると、上手と下手で入れ替わった衣装を自分たちで入れ替え、元のセッティングに戻しておく。現在の状況は知らないが、当時の東京公演では宝塚から来る衣装さんや楽屋の世話をしてくれるおばちゃんの数が限られていて全く足りなかったので、生徒(私たち)のファンの方々の楽屋と早変わりの手伝いが許された。

初日が開いてしばらくの間は、慣れていない下級生が靴を履かないで出たり手袋が見つからずに舞台に出たりは、日常茶飯事。約50人の初舞台生は床山さんが忙しくなる前、開演30分前くらいに舞妓のカツラをかぶせていただく。カツラがきつくてしばらくすると頭痛がするので、その時はカツラを少しテラし(生え際を後ろにずらすので、額がバカ広く見える)て、出番の前にしっかりとかぶり直して出るのだが、テラしたことを忘れたまま舞台に出たり、出番の前まで履いている楽屋のスリッパを脱ぐのを忘れて、足袋はだしで出るべきなのに、一人だけスリッパを履いたまま舞台に出てしまう。そのままずっと終わりまで履いていればいいのに、あっと気が付いたところで慌てて脱いでしまうので場面が変わると花道にスリッパが一足残ってしまい、次の場面の上級生が踊りながら蹴って袖へ入れてくださる。当事者は終演後に幹部部屋へ呼び出され、組長からこっぴどくお叱りを受けたことは数知れない。

日本物とショーの2本立ての場合は、30分の休憩の間に日本物のフィナーレが終わると階段を駆け上がって2階の衣裳部屋で衣装を脱ぎ、3階の楽屋の方々に置いてある蒸し器の中のおしぼりをゲットして、日本物の化粧を落とす。女役は背中まで白粉を塗ることもあるので、落とすだけでも時間がかかる。

その後、あの派手な宝塚のショーの化粧をし、人によっては二重の付けまつ毛を付け、髪をセットして、衣装部屋または早変わり部屋で衣装を着て、ショーが始まる。大きな羽根や、輪っかのスカートを履くときは、大階段の側まで衣装さんが運んでくださったのを身に着けて階段を上り、舞台裏の運動会などなかったように、余裕の笑顔いっぱいで大階段を下りる。

それでシーンの手順を頭の中でシミュレーションして準備する習慣が自然に身に付く。

これがその後の人生で非常に役に立った。舞台上に限らず、全ての予定を把握して準備をするいい癖がついた。

楽しかったこともたくさん

その頃の私たち月組は「オクラホマ」や「ウエスト・サイド・ストーリー」など、組一丸となってチャレンジする作品が多く、音楽学校時代の厳しい上級生・下級生の垣根はほとんど無くなり、同志・戦友というような絆が生まれた。

月組だけの泊まりがけの旅行や、北から南への地方公演も楽しかった。東京公演の終演後に、上級生や下級生と一緒に六本木のディスコで朝まで踊ったり、東京の寮で朝まで飲んでしゃべって、仮眠をしてちょっと二日酔いだけど2回公演のため、劇場へ入ってエレベーターに乗った時、悪しくも組長が同乗し、「あんたたち何していたん? お酒臭いなあ」とあの目玉でにらまれたが、皆2回公演をつつがなく務めた。

宝塚に帰り、舞台のない時は、朝から2つ3つクラスを取り、夕方は劇団以外のダンスクラスに行き、それからよく地元の同期生の車で神戸に飲みに行った。若かったなァー。

【次回予告】

次号は、柳家東三楼さんのエッセー第30回をお届けします。

 

 

 

 

 

Ako (あこ)

宝塚音楽学校在籍中に毎日音楽コンクール声楽部門4位入賞。
同校を主席卒業後、歌劇団月組(芸名=夏海陽子)で新人賞、歌唱賞など受賞。
退団後は、NHK歌唱コンクールに入賞。
TV・舞台に出演後、ニューヨークに渡る。
2019年にはPrimary Stagesの「GOD SAID THIS」のまさこ役で、ルシル・ローテル主演女優賞にアジア人で初ノミネート。
18年に日米両語の非営利劇団「AMATERASU ZA」を立ち上げ、芸術監督を務める。今年放映予定のFXのTVシリーズ「SHOGUN」への出演も決定。

ako-actress.com

 

 

お知らせ
新作公演、準備中!

Akoさん率いる非営利劇団「AMATERASU ZA」は、2022年後半に新作舞台「忠臣蔵 四十七士」を上演予定です。現在、絶賛稽古中! 続報はウェブサイト(amaterasuza.org)を参照ください。また、同劇団はウェブサイトで寄付も受け付けています。

 

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