プロスポーツから見る経営学

NYCFCリーグ優勝

強豪チームに必要な
総合的な強さの構築

2021年メジャーリーグサッカー(MLS)王者として、ニューヨークシティーFC(NYCFC)が初優勝いたしました。

NYCFCは、シティー・フットボール・グループ(CFG)とMLBニューヨークヤンキースが共同オーナーを務めるチームです。

CFGは英プレミアリーグのマンチェスターシティーFCを筆頭とした多数のクラブを保有し、Jリーグでは横浜Fマリノスの少数株主でもある世界的なサッカー事業グループです。

NYCFCはCFG傘下でインド、日本、オーストラリア、中国、スペインなどに散らばるチームのうちの一つです。ちなみに21年シーズンはニューヨークのみならずCFG傘下チームではマンチェスターシティーFCがプレミアリーグを、ムンバイシティーFCがインディアンスーパーリーグを、メルボルンシティーFCは豪Aリーグを制覇するなど、あちこちで好成績を残しました。

これは偶然なのか、それともこれだけのグループを構成したからこそ成し遂げられたことなのか。スポーツビジネスにおいて勝敗は保証できないし、狙って勝てるものではないことは何度も繰り返し解説してきました。そもそも勝ち負けがコントロールできたら面白くありません。

14日にはシティーホールでリーグ優勝をたたえる祝賀会も行われたNYCFCのメンバー

情報を共有するネットワーク力が差をつける

とはいえ、「よく勝つチーム」というものは存在します。いわゆる名門チームです。もちろん毎回必ず勝つわけではなくても「よく勝つ」のです。一般的に言えば裕福なオーナーであれば良い選手を買いあさることで勝つ確率が高まるとは言えます。しかし、MLSやAリーグでは選手の年俸に制限がかけられているサラリーキャップの規制があり、お金に物を言わせて良い選手を買い集めることができません。

誰も高性能なスーパーカーと、オンボロの車のレースなど見たくないので、サラリーキャップのような規制を設けることで皆同じ車を運転した時、誰が一番運転技術があるのかを測るレースになります。

また、この時世界中に仲間と言えるチームが散らばっているとチーム強化に有利になります。例えば、スカウティングでは世界中の優秀で安価で若い選手の情報が常にCFG傘下のチーム間で共有されているので、他のチームよりも早くそれらの選手を獲得することが可能になります。この理屈はテクノロジーを導入する際も、メディカル情報を共有する際も若手選手をトレーニングする際にも応用でき、世界中のチーム同士で常に最新情報を共有できるネットワークができると、ライバルチームといろいろな面で差をつけることが容易になるのです。

勝率を高めるには着実な進化が必要

NYCFCがMLSに加入したのは2015年。そこからこの短期間で優勝するまでになりました。毎年勝ち続けることは至難の技であるものの、勝つ確率を高めることで「よく勝つ」チームに着実に進化していきます。

ちなみにNYCFCのライバルであり、ニューヨークのもう一つのMLSのチームであるNYレッドブルズもオーナーはレッドブルグループであり、同じネットワーク内には南野拓実選手(現・英リバプールFC所属)が巣立ったレッドブルザルツブルグや、独ブンデスリーガの強豪チームであるRBライプチヒ、そして最近レッドブルグループ傘下に加入したブラジルリーグのレッドブルブラガンティーノなどが存在します。

今後もお金任せに良い選手をそろえるだけではなく、どれだけ総合的に強いチームを作り上げることができるかがキーになっていくでしょう。

 

 

中村武彦

マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。現東京大学社会戦略工学研究室共同研究員。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。


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