ハートに刺さるニュース解説

米国のインフレ事情

ポストコロナ経済による
物価上昇とインフレ

日本国内の人が長らく聞いたことがない言葉に「インフレ」があるだろう。定義によって異なるが、日本の「デフレ」は20年以上続いているが、米国でインフレは当たり前の現象だ。近年でマイナスになったのは2009年だけだ。

今日、米国の経済ニュースの常套(とう)句は、「物価高」と「インフレ懸念」だ。感謝祭の七面鳥は昨年より何%高いのか。クリスマスギフトの出費は? と、家計に関するニュースのキーワードは、この2つの言葉に集約される。

アメリカ株式市場のニュースでは、常にインフレ懸念が株価上昇を抑える。しかし、それに拍車が掛かっているのは事実である。原油高などによる物流のコスト増だけではない。物価上昇の背景に、新型コロナウイルス感染拡大後の、「ポストコロナ」経済も潜むからだ。

ガソリン価格は長年2ドル程度で推移したが、3ドルを超えた

「ポストコロナ価格」
軽食ランチは10ドル超え

ニューヨーク市では、新型コロナウイルス発生前に比べると、レストランのメニュー価格が確実に上がった。筆者の近所、クイーンズでは、スモークサーモンのベーグルが以前は7ドルだったが、現在は9ドル。6ドルだったワイン1杯が同様に9ドルという「ポストコロナ価格」だ。消費税やチップなどを加えると、サンドイッチやベーグルでも10ドルをはるかに超えて、「軽食」とは呼べない。マンハッタンに行けば、さらに物価上昇を痛感する状況だ。

つまり、軽食のランチが簡単に10ドルを超える。これは、デフレを20年以上経験してきた日本人には驚くべき事情だろう。

しかし、コロナ禍で廃業したレストランも少なくない中、生き残ったレストランは、頻繁にメニューや価格を変え、ポストコロナの経済再開に必死で対応してきた。市民が、それを大目に見るのも理解できる。

インフレを下支えする
家賃上昇

家賃の上昇も、米国の恒常的なインフレを下支えする。日本と異なり、1年あるいは2年契約で更新するレントは、その際にアップする。低所得世帯のために行政が、家主による値上げ率を管理しているアパートでも、値上げ率は「物価上昇率」を参考にしている。規制がないアパートは、家主が数十%から数倍にでも簡単に値上げできる。

昨年は、新型コロナウイルスによる家計の危機で、行政が家賃の滞納を一定期間免除する対策を打ち出した。借り人が、家主と個別で交渉し、値上げを見送ってもらうこともできた。

しかし、新型コロナウイルス感染拡大の打撃から経済がほぼ再開した今、家賃の上昇は、市民の懐を直撃する。

また、原油高とサプライチェーンの滞りも価格上昇をあおる。

「コスト上昇による値上げをご理解ください」。

最近、ベーカリーやスーパーマーケット、レストランで見られる表示だ。

原油高は、広範囲のビジネスに打撃を与える。バイデン大統領は11月23日、向こう数週間に5000万バレルの石油を放出すると発表。これに先立ち、石油・ガスなど、エネルギー企業がガソリン価格の釣り上げを狙い、違法行為に関与していないか、米連邦取引委員会(FTC)に調査を求めた。

同様に、サプライチェーンの目詰まりも製造業を直撃した。新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに始まった半導体、電子機器の供給は、混乱を来している。行き場のないコンテナが港湾ヤードに溢れている映像は、テレビに連日現れている。

30年ぶりに高水準の
インフレ率

とはいえ、米マクロ経済は、今のところ堅調だ。雇用面では、米国の新規失業保険申請件数は一時、52年ぶりの低水準に改善した。求人件数も過去最多水準で推移している。何よりも好調さを示すのは、1991年以来30年ぶりの高水準のインフレ率4・28%だ。

11月25日の感謝祭前は、空港が混み合っていた。ブラックフライデーやサイバーマンデーも、昨年を上回る売り上げを記録しそうである。米国民は、2年ぶりに家族がそろってのホリデーを楽しむとあって、支出を惜しむ様子はない。しかし物価上昇とインフレは、確実に市民の台所を直撃している。

 

 

 

津山恵子
ジャーナリスト。
「アエラ」などにニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOなどにインタビュー。
近書に「現代アメリカ政治とメディア」(東洋経済新報社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

 

 

 

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