アメリカに落語の花を咲かせましょう

〜第26回〜 落語界の変異株

異なるジャンルで活躍する当地の日本人が、不定期交代で等身大の思いをつづる連載。


マンハッタンで最後に落語をしたのは昨年2月でしたが、先週の日曜日にパンデミック以来初めてお客さまを前にしての独演会をしました。

E53ウェルネスで本年春よりフィジカルセラピーを受けていました。自宅でのオンライン公演が増え、狭い自宅で工夫をしながら高座を作り、Zoomで公演したり、録画したりしているうちに背中と首に痛みが生じて、セラピーとピラティスに通っておりました。

いつしか体も治って、「パンデミックも落ち着いたらここで落語をしてみたいです」、そう話していたのが実現しました。そしてなんと今回は2公演連続で、最初の回は英語2席、英語だけの独演会をすることを決意しました。20数年前に噺(はなし)家として師匠に入門したとき、45歳になった自分がマンハッタンで英語だけで独演会をすることになろうとは、つゆも想像していませんでした。

挑戦しないことには何も始まらない 

終演後、ニューヨーカーのおじさまのお客さまに「君の英語は問題ないよ。もっと子供とかおじいちゃんおばあちゃんなんかにも聞かせるといいね」と言われました。

そして「映画とか、他の表現とも違ってすごく面白かった」と。大変にうれしい言葉です。やはり何事もやってみることから始まる、挑戦しないことには何も進まない、そして英語で芸に挑戦するのに年齢は関係ない、と身をもって感じ入りました。正直言いますと、42歳で英会話を始めるまでほとんど英語を喋ったことがなく、大学受験は読んでマークシートを塗るだけしかしてきませんでした。

そして古典落語の世界では英語はおろか、江戸時代にないカタカナ語、そして町民が使わないであろう漢語も使ってはいけないと教育されてきました。例えば「計算する」は「勘定する」といったように。そしてかごに乗って移動していた古典落語の世界から、手拭いをスマホに見立ててUberで移動する世界にやって来たわけです。

今回は古典を僕なりに現代のアメリカに翻案した古典と古典落語の長短にインスパイアされたオリジナル英語落語の2席をしました。これは大冒険です。日本でも大して新作落語はしていなかったのに、新作英語落語をする、これもまた大きな挑戦でした。

日本語での公演では、「時そば」と「目黒の秋刀魚(さんま)」の2席で、お客さまには日本の食べ物が恋しくなるように企みました。なんといっても落語の大きなテーマは「寒さと飢え」を描くことです。とても寒かった江戸の街を描く、そして食べ物をいただく喜びをお客さまに感じていただく。

新作英語落語は「I Love Ramen」。こちらも日本人とアメリカ人のラーメンの食べ方に焦点を当てた食べ物の噺。落語の醍醐味である食べ物を食べる仕草を存分に味わっていただく、そう望んだ会はありがたいことにご好評を頂き、1年9カ月ぶりの生での独演会は無事に終了致しました。「なんだか秋刀魚とそばが食べたい、ラーメンをすすりたい」。そう思っていただけたようです。

RAKUGOを広める野望を胸に

本当にありがたいことです。そしてそして、落語会が終わった途端にまた新たな変異株が出てきてしまって、ライブはまたできないかもしれません。

それでも僕は変異株を恨みません。噺家で海外に住み、英語でRAKUGOを広めようとしている者は僕しかおらず、これはもう「あたしゃ落語界の変異株」とネタにして生きておりますので。でも皆さん、落語ウイルスにかかると世界の見え方が変わって面白いですよ~、と宣伝しておきます。落語は人生のあらゆる場面を描いています。変わらぬ人情を江戸を舞台に表現してきました。

そして落語にある変わらぬ人情を、英語やアメリカや世界に舞台を変えて花を咲かせよう、というのが僕の夢であり野望です。

どうかニューヨークやアメリカに住む皆さまは、その僕の挑戦の目撃者になってください。変異株として、世界の変異株と戦ってこれからもやっていきます。

【次回予告】

次号は、柳家東三楼さんのエッセー27回をお届けします。

 

 

 

 

柳家東三楼
(やなぎや・とうざぶろう)

東京都出身。
1999年に3代目・柳家権太楼に入門。
2014年3月に真打昇進、3代目・東三楼を襲名した。
16年に第71回文化庁芸術祭新人賞を受賞。
19年夏よりクイーンズ在住。演出家、脚本家、俳優、大学教員(東亜大学芸術学部客員准教授)としても活動。
紋は丸に三つのくくり猿。出囃子は「靭(うつぼ)猿」。
現在、オンラインでの全米公演ツアーを敢行中。落語の無料オンラインレッスンあり、詳細はウェブサイトへ。
zabu.site

 

 

 

お知らせ
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東三楼さんは、現在子供たちや学生、大人へ落語のグループ稽古を提供しています。落語と共に、日本語や日本の文化を一緒に学びましょう!

落語レッスンに参加したい人は、tozaburo.rsv@gmail.com宛にメールでご連絡ください。

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