アメリカに落語の花を咲かせましょう

〜第24回〜 平林

異なるジャンルで活躍する当地の日本人が、不定期交代で等身大の思いをつづる連載。


「たいらばやしか、ひらりんか、いちはちじゅうの、もくもく、ひとつとやっつでとっきっき」。

「平林(ひらばやし)」という名前の読み方がわからなくなってしまった小僧の定吉。方々で読み仮名を尋ねるとみんないい加減なことばかり。「この暑さで気でも違ったのか」「いいえ、字が違います」。そんな粋なオチ。

「平林」の「平」と「林」を分解すると、ひらりん、いちはちじゅう、ひとつとやっつなどいろいろな読み方ができます。この噺(はなし)をキッズの中級クラスで数カ月お稽古していました。漢字には音読み、訓読みがあって、分解して読むと面白い、日本語って楽しいと思って落語に取り組んでもらおう、そんな作戦です。

日本語は漢字、ひらがな、カタカナを使います。漢字は音読み、訓読みに加えて一緒にくっつく字によって読み方が変わります。「たいらばやしか、ひらりんか、いちはちじゅうの、もくもく、ひとつとやっつでとっきっき」。子供たちはリズムでまず覚えます。その後で漢字を見て理解します。寿限無(じゅげむ)もそうですが、まず音で覚えてから意味を知る。4歳のひらがなが読めない子も落語のリズムでどんどん日本語を覚えていっています。「日本語は難しいから嫌だ」を「難しいから楽しい」と思うにはどうしたら良いか、それには落語が良いように思います。

 

噺家の誇り高き芸名 

現在オンラインの落語のクラスは子供の中級、初級クラス、日本のクラス、大人のクラス、シリコンバレークラスとあり、35人くらいが毎週それぞれのクラスに参加しています。皆さん「ざぶとん亭○○」で芸名をつけていまして、みんな本名は知らずに芸名で呼びあっています。それぞれ個性的な名前をつけて、落語をするときだけは違う人格になる、芸名はそういう役割があります。その分、プロの噺家は名前に対するプライドは高く、間違えられるのをとても嫌がります。

私の芸名「柳家東三楼(やなぎや・とうざぶろう)」ですが、本当によく間違えられます。よくある間違いは「東三桜」です。「楼」の字を見た目が似ている「桜」にしてしまうのでしょう。しかし「ろう」を変換するのに「おう」と読む「桜」に変えるのはなぜなんだろうと不思議です。「とうざぶおう」と最初から読んでいるのでしょうか。

次に多いのが「柳家」が「柳屋」または「林家」になるパターンです。これはなんとなく分かります。「や」を音だけで変換したパターン、またはテレビでよく耳にする「林家」だろうと思い込んでいるパターン。

そしてもう一つ気になるのが「柳家さん」と呼ばれることです。僕らの世界は下の名前で自分を認識しているので、「柳家さん」「三遊亭さん」「笑福亭さん」などと呼ばれるのを非常に嫌がります。海老蔵さんを「市川さん」と言わないのと一緒です(多くのメディアは市川さんを使ってますが)。

日本語の名前は面白い

先日来たメールの僕の名前に驚きました。「林屋桜山郎様」。

誰ですか(笑)。一つも合ってない。「はやしやおうざんろう」って読んだんでしょうか、書いたんでしょうか、「柳家東三楼」の跡形も残っていない「林屋桜山郎」。なんだかお奉行所の御白洲(おしらす)で片肌脱いで桜の入れ墨を出しそうな名前。こういう事例が出てくると、アルファベットでローマ字読みなら「とざぶろ」程度に音が短くなりますが、正解には近いような気もします。「とうざぶろう」を「おうざんろう」で我慢するか、「とざぶろ」で我慢するかとなると、僕は「とざぶろ」の方がいい。

日本語で名前を持つって、改めて面白いなと感じました。ここに来て今はキラキラネームというさらに読み方を混乱させようというブームもあるそうで。元祖キラキラネームの寿限無を作り出した落語界からは名前について文句は言えないような気もしますが、「林屋桜山郎」だけは勘弁してください。「字が違います」と平林になぞらえて、返信しました。

【次回予告】

次号はAkoさんのエッセー第8回をお届けします。

 

 

 

 

柳家東三楼
(やなぎや・とうざぶろう)

東京都出身。
1999年に3代目・柳家権太楼に入門。
2014年3月に真打昇進、3代目・東三楼を襲名。
16年に第71回文化庁芸術祭新人賞を受賞。
19年夏よりクイーンズ在住。演出家、脚本家、俳優、大学教員(東亜大学芸術学部客員准教授)としても活動。
紋は丸に三つのくくり猿。出囃子は「靭(うつぼ)猿」。
現在、オンラインでの全米公演ツアーを敢行中。落語の無料オンラインレッスンあり、詳細はウェブサイトへ。

zabu.site

 

 

 

お知らせ
子供、学生、大人向け落語レッスン開講中!

東三楼さんは、現在子供たちや学生、大人へ落語のグループ稽古を提供しています。落語と共に、日本語や日本の文化を一緒に学びましょう!

落語レッスンに参加したい人は、tozaburo.rsv@gmail.com宛にメールでご連絡ください。

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