ニューヨーク仕事人名鑑

ニューヨーク仕事人名鑑 #29 更井真理さん

困難に立ち向かい、今を全力で生きる日本人ビジネスパーソン。名刺交換しただけでは見えてこない、彼らの「仕事の流儀」を取材します。

※これまでのビジネスインタビューのアーカイブは、nyjapion.comで読めます。


日米を拠点に第一線で活躍するファッションフォトグラファーとして、有名モード誌の表紙などを多数飾ってきた更井真理さん。今でこそファッション写真が主戦場だが、実はキャリアの始まりは意外にもフォトジャーナリストだったという。当時好きな男子を追ってカリフォルニアの学校に行ったというのは、本能のままに生きてきた更井さんらしいエピソードだが、そこで写真に出会った時に本人が感じた「私はきっと写真で一生やっていく」という直感は見事に的中したということになる。

ニューヨークと深くつながれたコロナ禍

その後ファッションフォトグラファーに転身し、ロンドンで9年間過ごした後、ニューヨークで先に活動していた夫と暮らすため移り住んだのが2014年。その6年後、まさか当地でコロナ禍を経験することになるとは思いもよらなかったが、昨年9月の丸1カ月間のニューヨークの街の様子を記録したドキュメンタリー写真集「SEPT. 2020 NYC」を出版したことは、更井さんにとって大きな転機となった。

東京の編集者からの「ニューヨークに行けない今、日本人が元気をもらえるような写真集を作ってほしい」というオファーが発端で当時の街並みと人の表情を写した写真は、どこか緊張感もあり、誰もが人とのつながりを求めたあの時期独特の感情が呼び起こされる。

「被写体と自分の間に流れる微妙な緊張感が好きなんです。その人の知らない一面をこじ開けて撮らせてもらう。もしそこを達成することができなかったらその日は私らしい写真が撮れていないのだと思います」と更井さん。

コロナ禍の先行きの見えない中で、撮影のためローカルの道や場所、人、この街のまだまだ知らない部分を自分の目で見ることができたことは、それまでのニューヨークの印象を変え、次に進むための浄化作業になったという。

「正直初めはニューヨークがあんまり好きではなかったんです。でもパンデミックからの再生を見てこの街の本当の強さを知ることができた。ニューヨークはそんなに簡単に本当の姿を見せてはくれないけど、追えば見せてくれる街だと感じています」。

うわべでなく、本当の意味で「深くこの街とつながれた」のは、この写真集に全身全霊をささげたからだろう。

見えてきた、本当に撮りたいもの

さらに、メトロポリタン美術館で行われた女性写真家による写真展「The New Woman Behind The Camera」が、自身のドキュメンタリー写真への情熱を刺激したそう。

「ファッション写真ももちろん楽しいけど、自分の本質は、時間をかけて撮り溜めていくこういった作品なんだと気付かされましたね」。今後は自身の世界観を表現するドキュメンタリー写真にも力を入れていきたいと意気込む。

最近は動画制作の仕事も手掛けていることから、“瞬間を切り取る”写真の面白さを改めて再発見しているという中で、「息子の成長を追った記録写真も撮り続けているんです」と、母としての愛情あふれた一面も見せる。

多方面から引っ張りだこのフォトグラファーでありながら、1児の母、妻としても力強く生き抜く。そんな更井さんのフォトグラファー人生はまだまだ進化を続けていく。

 

 

 

更井真理さん
フォトグラファー

来米年: 2014年
出身地: 奈良県
好きなもの・こと: キックボクシング
特技:写真

奈良県生まれ。
サンタモニカカレッジで写真を学ぶ。
1999年から東京で活動開始。
2005年からロンドンをベースに活動。
14年にニューヨークへ拠点を移す。
10月31日までソーホーにあるアートギャラリー、ナウヒアで個展「SEPT. 2020 NYC」を開催中。
saraimari.com

 

 

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