大学進学を考える 日本と米国、二つの国で学び暮らす選択
コロナ禍を経験して社会は大きく変わった。日本社会も例外ではない。未来を見据えて、グローバルな大学進学の選択肢の一つとして、米国と日本で自分たちのルーツを生かす学びについて掘り下げる。
異なるジャンルで活躍する当地の日本人が、不定期交代で等身大の思いをつづる連載。
落語の世界で車というと人力車のことです。文字通り人が力で引く車です。この反対俥(はんたいぐるま)という噺(はなし)は病弱だったり、勢いが良すぎる俥屋さんに当たってしまったり、大変な思いをします。今で言うとハズレのウーバーやリフトに乗ってしまった感じでしょうか。
僕は京都で乗ったイケズなタクシーを思い出します。その時はしばらく京都の中京区に住むつもりで大きなスーツケースとバックパックを持っていましたので、バスや在来線はやめてタクシーにしました。
滞在先は壬生寺(みぶでら)のそばでしたが、僕の説明が気に入らなかったのか、京都のプライドなのか目的の長屋には着きませんでした。というのも「中京警察署」はナカギョウと読むのですが、僕は「チュウキョウ警察暑」と読んでいました。運転手さんは「そんなとこ知りまへん」と言って南座をぐるっと回って、四条河原、大宮を通って二条駅に来ました。2000円くらいと思っていましたがその時点で3000円を超えています。「この辺りにチュウキョウ警察はありませんか」。僕が改めて聞くと「知りまへん」と言って駅前で止まってしまいました。中京警察署は目と鼻の先です。運転手さんは脳内で「チュウキョウ」を「ナカギョウ」に変換することはありませんでした。「中京」は「ナカギョウ」であってしかるべきで、決して「チュウキョウ」はありえないのです。
渡米前の運転免許合宿
その2週間後に初めての北米公演が決まり、僕が初めにしたのが運転免許合宿の申し込みでした。アメリカは車社会、そして旅先で大きな荷物を持ってイケズされるのはこりごり、自分で運転しなくっちゃ。
僕は京都滞在を短く切り上げて、合宿先の新潟へ向かいました。日本海近くの小さな町。新潟駅から30分ほどの小さな湖以外何も無い町。11月の半ばでした。18歳とか20歳くらいの若者に混じり、41歳の私は食堂でご飯を一人で食べていました。周りは楽しそうに交流しています。僕はマニュアルでの取得を選んだことを深く後悔し、カナダ、アメリカでの公演のためにオンライン英会話や英語の自習に魂を傾けていました。2017年の暮れ、北米へは18年の2月末から。その直前はセブ島の語学学校で合宿の予定です。
新潟の田園の中にある教習所。刈り取った稲は積み上げられ、その風景に多くの白鳥と溶け残った雪が白の印象を与えていました。なぜマニュアルにしたんだろう、半クラッチで8の字や縦列駐車のできない僕はハンコを教官から貰えず、半泣きで毎日を過ごしていました。唯一の楽しみはオンライン英会話でフィリピンの先生に雪景色を見せて驚かすくらいでした。
反対俥にならぬよう
そんなある日。教習の途中でどうしてもS字ができずにいると教官が「稲葉さああああああん」と叫びました。僕の本名です。その瞬間に田んぼにいた多くの白鳥が教官の絶叫で一斉にバタバタバタバタと飛び立ちました。冬の澄んだ空気の青い大空に、真っ白な白鳥が群れを成して飛んでいく。僕は運転するのをやめて美しいな、と見上げていると、教官は右手を目とこめかみに当てて、ダメだコリャといった趣で背もたれに首をもたげていました。
教習所も無事に卒業し、日本での免許が取れ、国際免許も取得しましたが、最初のツアーやその後の公演先、移住後のニューヨークでの生活は日本や東京での生活と変わりなく、地下鉄と公演主催者の運転で間に合っていました。
ところが公演先が増えるにつれ、車の必要性も感じ始めニューヨークでの免許の取得を決めました。しかしロードテストに2回落ち、3回目のテストがちょうどこの連載ページが読まれている今頃です。果たして良いご報告ができるのでしょうか。逆走して反対俥にだけはならないように祈るばかりです。
【次回予告】
次号は、Akoさんのエッセー第7回をお届けします。
柳家東三楼
(やなぎや・とうざぶろう)
東京都出身。
1999年に3代目・柳家権太楼に入門。
2014年3月に真打昇進、3代目・東三楼を襲名。
16年に第71回文化庁芸術祭新人賞を受賞。
19年夏よりクイーンズ在住。演出家、脚本家、俳優、大学教員(東亜大学芸術学部客員准教授)としても活動。
紋は丸に三つのくくり猿。出囃子は「靭(うつぼ)猿」。
現在、オンラインでの全米公演ツアーを敢行中。また活動支援を募るクラウドファンディングも募集中。
詳細はウェブページへ。
camp-fire.jp/projects/view/483182
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