プロスポーツから見る経営学

ワクチン接種証明の義務化

接種義務がもたらす
観戦機会の不平等性

ニューヨーク市においては、9月13日からレストランやスポーツジム、屋内娯楽施設などを利用する際に、12歳以上の方はワクチン接種証明の提示が義務化されています。この流れは当然スポーツ観戦にも適応されることになるのですが、証明書の受け入れについての最終的な判断は事業主(施設側)にあり、ニューヨーク市はこれを指導する立場となります。

ニューヨークを代表するMLBのヤンキースとメッツは、ワクチン接種証明を提示しないと入場できない方針を採用しています。提示に関しては、紙の証明書をデジタル形式で提示することも許可しており、HealthPathや、空港のセキュリティーをスピーディーに通過できるCLEARなどのアプリの提示も受け付けています。デジタル形式の証明書に関して公式サイトで発表をしていると同時に、今後アプリが増えたり変更になることもあると思うので事前に確認することをおすすめします。

スポーツ観戦は、他のビジネスよりも念入りな感染対策が必要となるだろう

接種をめぐる権利と
脅かされる公平性

これらの施策はスポーツに限らず、新型コロナウイルス感染拡大を防止するための安全性の観点から止むを得ず採用しているのですが、当然、賛否両論が存在します。大きな理由としてはワクチン接種を医療的理由、宗教的理由もしくは思想的に行いたくない、または行えない人も多数存在するからです。

この人たちの考え方はもちろん尊重されるものであり、それゆえスポーツ観戦または他のものへのアクセスをはばかられるのは公平ではないといえます。また国際的に視野を広げた際には、国によってワクチン接種率や接種機会の不平等も存在するので、公平性や公共の安全性とのバランスを保つことが非常に困難といえます。

アメリカ合衆国ならではの興味深い点は、連邦レベルでは「アメリカ人のプライバシーや権利が守られるべきだというシンプルな考えを持っている。人々を不公平に扱うことはない」と、このワクチン接種証明の義務化をしないことを発表しており、世界保健機関(WHO)でも同様の姿勢を打ち出しています。

観戦には念入りな感染対策が必要

ニューヨーク市は全米で初めてこの試みを導入するので、いろいろと今後の成果や反発、問題が出てくるものと思われます。特にスポーツ観戦においてはレストランなどとは異なり、大声で応援をしたり、観客席同士も近かったり、ハイタッチや抱擁なども一般的なビジネスと比較すると頻出するという特異性を持ち合わせています。

今年7月にロンドンで開催された欧州選手権(ユーロ2020)に際しては、朝からアルコールを帯びたお祭り騒ぎが繰り広げられ、何万人もが試合会場のスタジアムに向かい、電車内で高歌放吟する場面を目の当たりにしました。このような点からも、他の一般的なビジネスより念入りな対策が必要であることがわかります。果たしてこのワクチン接種証明の義務化が感染拡大を抑制することに貢献するのか、あるいは不平等や差別を生み出すパスポートよりも、今までのような入場者数制限など他の施策の方がよいのか、今後の動向に注目していきたいものです。

 

 

 

中村武彦

マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。現東京大学社会戦略工学研究室共同研究員。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

 

 

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