紅茶をめぐる冒険
初秋の訪れとともに飲みたくなるのがポットで淹れた紅茶。茶葉やブレンドによって異なる香りと味は、私たちをくつろぎと恍惚の世界に誘い、またある時は懐かしい記憶を辿る道標にもなってくれる。極上の一杯を求めて、ニューヨーク紅茶めぐりの旅、はじまりはじまり。
異なるジャンルで活躍する当地の日本人が、不定期交代で等身大の思いをつづる連載。
卒業式の夜、私は同期生の1人とある関西のテレビ局にインタビューに呼ばれた。本番が始まり紹介されたのが、「子役で1番のXXXアツ子さんと娘役で1番のXXX XXXさんです」。えーっ! 1番は全部の1番しかなくて子役の1番とか娘役で1番なんてないのですと今なら本番中だろうが何だろうが、はっきりと主張するのだが、16歳の世間知らずの少女にとってテレビでインタビュー中に間違いは正せなかった。
この娘役で1番と言われた人は6番くらいの成績だったが、そのテレビ局/新聞社に強力なコネがあったそうだ。これは非情なる現実との対面だった。そして宝塚歌劇団に入団した途端にまた、「えーっ」を経験。
従来は首席で入団した生徒(宝塚では何歳になっても生徒と呼ぶ)は、初舞台公演で歌、もしくはダンスのソロがある。私はそれを目標に頑張ってきたのだが、初舞台の月組公演内海重典作「ファンタジア」ではトリオの歌手の1人で、成績で8番にも入らなかった人が歌のソロを務めた。
私は歴代で例外の首席になった。あーっ、前にもあった、あった。小学校6年生の体育会で全員のラジオ体操の時、リーダーが一段高いところで見本を見せる。体育は常に5だった私は、当然私がデモンストレーションをすると思っていたが、叔母さまが女学館の先生だった人が選ばれた。それが初めての「えーっ」だった。んー、そうだった。(笑)
歌劇団研究科1年生
宝塚歌劇団に入団した1年目は研究科1年生として、さまざまな組に出演する。私は月組で初舞台を踏み、その後一度花組に出演しただけで、1年後の組分けで月組に決まった。初舞台では、雪組の鴨川清作作の「シャンゴ」の厳しい振り付けで「鬼のストーン」と呼ばれた、パディ・ストーンさんの「ファンタジア」の稽古を目の当たりにすることができた。
劇団に入ると、無料でいろいろなレッスンが受けられる。マーサ・グラハム・カンパニー出身のアキコ・カンダ先生や、ジャズダンスの朱里みさを先生、ジャズの水島早苗先生、シャンソンの深緑夏代先生、日本舞踊の藤間勘寿朗先生など、私はできる限りの先生たちのクラスを受けた。
住居も、冷たい食事やぬるいお風呂の下宿は早々に引き上げ、宝塚本駅近くの台所付きのアパートに移り、卒業前に宝塚南口にあった下宿へ移った。水穂葉子さんや、東京女学館から宝塚へ進んだ先輩の七色春香さんなど優しい上級生に囲まれて、食事も遅く帰ってもお手伝いの方が温めて下さり、居心地はすこぶる良かった。
「オクラホマ」少女役
月組に入ってすぐにブロードウェーミュージカル「オクラホマ」のオーディションの発表があり、私は発売されていたレコードと楽譜を買って勉強した。ブロードウェーで「少女」の役で出演し、演出・振り付けのアグネス・デ・ミルの助手を務めたゲムジー・デ・ラップさんが演出・振り付けでニューヨークから来られた。
主役のローリーとカーリーは初風諄さんと上月晃さんにすでに決まっていたので、私はアド・アニーの「I can’t say no」をオーディションで歌った。バレエのオーディションもあり、その後再びアド・アニーの歌とセリフを読まされた。その日の夜、デ・ラップさんのオーディションの通訳をしていらしたバレエの大滝愛子先生から、宝塚ホテルのデ・ラップさんの部屋に来るように電話があった。
デ・ラップさんは「あなたのアド・アニーのオーディションはとても良かったので、私はあなたをアド・アニーに配役しようと歌劇団に言ったのだが、歌劇団はスターの八汐路まりさんに演じさせると譲らないので、私がブロードウェーで演じた『少女』の役をあげます」と言って下さり、その後も稽古場で私を「My little Ado」と呼んで下さった。
今思えば、デ・ラップさんの歌劇団へのささやかな抵抗だったように思える。でもおかげさまで、私は歌劇団から新人賞を頂いたり、東京公演を観られた大先輩の葦原邦子さんが「歌劇」という雑誌の公演評でとても褒めて下さったり、少し元気が出た。
【次回予告】
次号は、柳家東三楼さんのエッセー第19回をお届けします。
Ako (あこ)
宝塚音楽学校在籍中に毎日音楽コンクール声楽部門4位入賞。
同校を主席卒業後、歌劇団月組(芸名=夏海陽子)で新人賞、歌唱賞など受賞。
退団後は、NHK歌唱コンクールに入賞。
藤間流紫派師範名執「藤間公紫」となる。
TV・舞台に出演後、ニューヨークに渡る。
2019年にはPrimary Stagesの「GOD SAID THIS」のまさこ役で、ルシル・ローテル主演女優賞にアジア人で初ノミネート。
18年に日米両語の非営利劇団「AMATERASU ZA」を立ち上げ、芸術監督を務める。
ako-actress.com
お知らせ
新作公演、準備中!
Akoさん率いる非営利劇団「AMATERASU ZA」は、2022年後半に新作舞台「忠臣蔵 四十七士」を上演予定です。現在、絶賛稽古中! 続報はウェブサイト(amaterasuza.org)を参照ください。また、同劇団はウェブサイトで寄付も受け付けています。
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