アメリカに落語の花を咲かせましょう

〜第17回〜 寝床

異なるジャンルで活躍する当地の日本人が、不定期交代で等身大の思いをつづる連載。


落語で言う「寝床」はベッドという以上に芸事に凝ってしまい、下手の横好きで周りに迷惑を掛ける人、という意味があります。明治、大正時代に女性の義太夫語りが今でいうアイドルのような存在になり、義太夫、浄瑠璃を趣味にする人が増えました。聴いているだけでは物足りず、自分でもやってみようとなるのは御大家の旦那で、酒肴を支度して皆に聴いてもらおうと躍起になります。そんなかわいい、義太夫さえ語らなければ良い人の旦那を描くのが古典落語「寝床」です。

このたび要望があり、子供のグループレッスン以外に学生、大人のための稽古のクラスを作ることになりました。子供のクラスとは趣向を変えて、落語の実践をするのはもちろんですが、「大人の教養」を身に付けることを目的に、落語の歴史や名演の紹介、落語界の裏話なども織り込んでいく予定です。日本には趣味で落語をするアマチュアの方がたくさんいて、落語を演じるということが趣味として根付いています。子供や学生、社会人の日本一を決めるコンテストもあり、落語の人気や知名度が上がるにつれ、活動の幅は広がっているようです。

 

 

落語を正しく伝えたい

基本的にプロの噺(はなし)家は素人さんにはあまり落語を教えたがりません。それぞれの流派に家の芸があり、それを安易に流出させたくないというのもありますが、それよりもプロとプロの間で行われる稽古は基本的にお金のやりとりは介在せず、無料です。

大学にある落語研究会(オチケン)の顧問をしたり、教室のようなものを開いたり、芸能人に教えたりということで報酬が発生している場合はありますが、ほとんどの噺家はプロにしか教えません。

僕も日本にいた時はそうでした。行政の要請で数人の子供に短期で教えたことはありましたが、今のように子供や学生に定期的に教えることはありませんでした。それではなぜ今のようにグループ稽古や個人の稽古を見るようになったかと申しますと、僕のアメリカへ移住した動機にも重なります。

「日本の落語を世界のRAKUGOへ」という旗印のもと、Rakugo Association of Americaを発足し、NPO法人化を目指して活動していますが、その目的は日本の文化や日本語を「落語を通して正しく伝えたい」、そして、後進者をアメリカで育てるということです。現在アメリカで落語をされている方はいらっしゃいますが、僕なりにプロの真打ちとしての経験で後進や落語を楽しむ方を増やしたい、そんな思いで毎週稽古の場を設けています。

アメリカ流の指導法

そこで僕が気を遣っているのが教授法です。プロの落語界は師弟関係を中心とした、完全な縦社会、階級社会です。その環境で育った僕の感覚から、同じようなシステムではアメリカではなじまないと思い、横のつながりといいますか、あまり師匠や先生という感覚ではなく、友達に近い感じで一緒に落語、RAKUGOを楽しみながら作っていく、そんなクラスにしています。この方法が最善かはまだわかりません。自分がしたように、厳しいプレッシャーの中でプロとしての自覚や技術を身に付ける方法は、いずれ職業として噺家になりたいという方が出てきてからでも良いかもと、今は封印しています。もしプロになりたいという方が現れても、そうはしないかもしれません。

USオープンが始まり、錦織圭選手の試合を観戦してきました。テニスプレーヤーはコーチによって成績が変わると聞きます。アメリカでは科学的なことや合理的なことが重視されるように思います。そして僕の育った落語界は不条理で言語化されない多くのルールがあり、ハラスメントに近いことも以前は多くありました。

僕が今後落語を教えていく中で、体系化したメソッドが必要かな、とも思いますが、そこが落語の難しいところで、落語を演じる技術や芸人としての心構えはシステマチックでない方が独創性の高い芸が生まれるようにも思います。ひとまず自由な雰囲気で、それぞれの演者が個性を発揮できる、そんな指導法を探りながらやっていきます。そして「寝床」の会に呼んでもらって、出演料がいただけたら最高ですね。僕が主催するクラスの合言葉は「目指せカーネギーホール」です。

【次回予告】

次号は、柳家東三楼さんのエッセー第18回をお届けします。

 

 

 

 

 

柳家東三楼
(やなぎや・とうざぶろう)

東京都出身。
1999年に三代目・柳家権太楼に入門。
2014年3月に真打昇進、三代目・東三楼を襲名した。
16年に第71回文化庁芸術祭新人賞を受賞。
19年夏よりクイーンズ在住。
演出家、脚本家、俳優、大学教員(東亜大学芸術学部客員准教授)としても活動。
紋は丸に三つのくくり猿。
出囃子は「靭(うつぼ)猿」。
現在、オンラインでの全米公演ツアーを敢行中。
落語の無料オンラインレッスンあり、詳細はウェブサイトへ。
zabu.site

 

 

お知らせ
子供、学生、大人向け落語レッスン開講中!

東三楼さんは、現在子供たちや学生、大人へ落語のグループ稽古を提供しています。落語と共に、日本語や日本の文化を一緒に学びましょう!

落語レッスンに参加したい人は、tozaburo.rsv@gmail.com宛てにメールでご連絡ください。

 

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