ハートに刺さるニュース解説

クオモ州知事辞任

セクハラ認定される
辞任包囲網は破れず

 

米ニューヨーク州のレティシア・ジェームズ司法長官は8月3日、アンドリュー・クオモ同州知事が11人の女性にセクハラをしていたことを立証したとして、165ページの捜査報告書を発表した。クオモ氏はこれを受けて10日、2週間後に辞任する意向を表明した。しかし、セクハラ行為は認めず、「(超えてはいけない)一線が変化していたことを理解していなかった」と弁明した。

クオモ氏が辞任した後、副州知事であるキャシー・ホークルさんが州知事に昇格、ニューヨーク州で初の女性州知事となる。

クオモ氏は、部下の女性らにセクハラを繰り返し、州政府は女性にとって「恐怖心をあおる」職場環境だという。

クオモ氏は昨年、新型コロナウイルスの爆発的感染への対策で辣腕を発揮し、政治家として全米ブランドにのし上がった。しかし、セクハラを繰り返していた。

6日には、同氏に胸を触られたと証言した女性が、刑事事件として、州都があるアルバニー郡保安官事務所に告発した。

バイデン米大統領も3日のホワイトハウスの記者会見で「クオモ氏は州知事を辞任するべきだ」と指摘した。セクハラは今年3月、複数の被害者がメディアに告発し明らかになった。ジェームズ司法長官は、外部の弁護士2人を指名し、捜査を開始した。弁護士らは、5カ月に渡り179人にインタビューし、報告書をまとめた。クオモ氏も宣誓のもと、11時間の尋問を7月に受けている。

側近や支援者が
被害者の苦情を無視

弁護士らによると、クオモ氏は、部下の特に若い女性11人に対し、同意なく身体に触れ、キスをしたり、ハグしたり、不適切なコメントをした。

弁護士の1人、アン・クラーク氏は「州知事は、女性らを探し回ったり、じっと見つめたり、上から下まで見たり、胸やお尻を眺めたりしたことも多かった」と、被害者や部下の女性を不快にさせる行為を繰り返していた。

また、クオモ氏の側近や支援者が、同氏の機嫌を損ねないように、被害者らの苦情を無視し、もみ消していたことも分かった。被害者だけでなく、それを知る女性職員にとって恐怖心と緊張感に満ちた「ストレスが激しくたまる職場環境」が常態化していた。

セクハラは否定
州議会は弾劾手続き

一方、クオモ氏は報告書に対し、記者会見ではなく、録画ビデオと85ページの反論書を公表。「報告書は、私について事実と異なる描写をしている」とし、辞任する意向はないとした。

「私は、不適切に誰かに触ったり、性的に言い寄ったりはしていない。(中略)(報告書の中の)私は真の私ではないし、過去にもそうであったことはない」(同氏)。

ビデオは、クオモ氏が男女に関係なく、キスしたりハグしたりする写真を立て続けに流し、同氏は「温かさを示す表現だ。人々をリラックスさせて、笑顔を見たいからだ」と説明した。

これに対し、民主党が多数派であるニューヨーク州議会は、有罪が可決すれば、クオモ氏を州知事職から罷免できる弾劾への手続きを進めていた。今後の見通しは不明だが、弾劾罷免されなければ、同氏は将来選挙に出馬できる。

訴追の可能性も
政治生命に打撃

クオモ氏の2代前の州知事だったエリオット・スピッツァー氏(民主党、2007年就任)は、高級娼婦クラブに数万ドルをつぎ込んでいたことが分かり、就任から1年程度で辞任している。

今回の捜査に当たった弁護士の1人で元連邦検察官のジューン・キム氏は、「州知事にノーと言ったり、彼や彼の側近幹部の気分を損ねると、相手にされなくなるか、さらに悪いことも起きるというカルチャーがはびこっている」と話した。

これは、女性へのセクハラや性的暴行をなくそうという#Me Too運動のきっかけになった元ハリウッド・プロデューサー、ハーベイ・ワインスタイン服役囚(現在)のセクハラ事件にも共通している。クオモ氏の事件は今後もワインスタインと同様、訴追される可能性があり、知事辞任に至った。

 

 

 

津山恵子
ジャーナリスト。
「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOなどに単独インタビュー。
近書に「現代アメリカ政治とメ ディア」(東洋経済新報社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

 

 

 

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