アメリカに落語の花を咲かせましょう

〜第13回〜 3人旅

異なるジャンルで活躍する当地の日本人が、不定期交代で等身大の思いをつづる連載。


「3人寄れば1人乞食なんてなことを申しまして」という文句で始まる「3人旅」。3人で行動をすると、どうしても1人仲間外れになってしまい、効率がよくないということわざです。この噺(はなし)では江戸から出て、箱根の山を越える旅で、1人、足の悪い馬に当たってしまい、珍道中はより笑いを生みます。「2人旅」というほのぼのした落語もありますので、聴き比べてみてはいかがでしょうか。

 

旅先で大しくじり

これまで旅の仕事は数えられないくらい、日本でもアメリカでもしてきました。各地での公演ではおいしい物をいただき、地のお酒をいただき、観光名所を回って帰るという芸人冥利(みょうり)に尽きる仕事です。そして僕にとっては、師匠やお客さまをしくじってしまうのも、旅に付きもの。それは大分県の湯布院でした。

師匠に付いて大分県をぐるっと回る一週間くらいの旅でした。大分市内の仕事を終えて、湯布院、佐伯市を回って帰る旅です。湯布院は2泊。1泊目は夕方に着いて部屋で休み、2日目の夕方に公演し、次の日に佐伯に向かうスケジュールでした。

無事夕方の公演を終え、主催の宿「亀の井別荘」という超高級旅館のおもてなしを受けました。和食レストランで地鶏のすき焼きをいただき、ビールや焼酎をいただく。僕は二ツ目になりたてで27歳くらいでしたので、もう17年くらい前の話です。

レストランで食事を終え、師匠の部屋で主催の皆さんと飲み直そうとなりました。「師匠、とっておきのお酒持ってきましたよ」と主催のOさんは言うと、当時プレミアが付いてなかなか手に入らない兼八を一升出しました。やっぱり亀の井は違うなあ、そう思っていると、僕に出されたわけでもない兼八の杯がぐいぐいと進みます。師匠や主催の方はゆっくり兼八を味わっているのに、僕はガブガブ、ガブガブ。

気付いた時は遅かった。もう残り少し、僕が半分くらい飲んでしまっていた。そこまで来てようやくお値段を聞くと当時一升で2万円以上とのこと。主催の方は普段は優しい顔ですが、うっすら表情が顔の真ん中により「あんたじゃなくて、師匠に飲んでもらいたいのに」という感じです。ああ、しくじった。そこは酒宴、楽しく終わりましたが、次の朝、師匠の雷は落ちました。

なんと私メ、寝坊をしたのです。楽しい旅で師匠を怒らせてしまった。後悔の念と共に二日酔いがひどい。ああ、なんて弟子なんだ。そう思いながら、落ち込んでいると「おい、ここは朝飯がうまいんだ。飯食って、温泉入るぞ」と師匠。旅の仕事じゃなかったら一日でクビだったかなと思いますが、師匠と温泉に浸かりつつ、なんとか寝坊を見逃してもらえました。

10年後真打ちになり、賞を取った時に亀の井別荘のOさんがお祝いに兼八を2本送ってくれました。いつか僕が師匠で弟子や後輩を連れてったら、と想像しました。

兄妹弟子の成長

一週間ほど滞在したテキサス州ダラスではかわいいお弟子さんに迎えられました。僕がオンラインで指導している中学生と小学生の兄妹です。日本食レストランでの2日間の独演会で僕の落語に挟まって落語をしてもらいました。

兄の「ざぶとん亭たろう」君は「兄弟の馬鹿」「一家そろっての馬鹿」の小噺を披露。妹の「ざぶとん亭おはな」ちゃんは「寿限無」を披露。馬鹿の小噺はいろいろとアメリカの風習を入れてアレンジしたりしていくつかパターンを持っていましたが、日本人が多い席でしたので古典通りに。「寿限無」は少し長いと思ったようで、おはなちゃんが自分で噺を編集して、面白い、ウケるところを中心に再編成して「少し短いバージョンです」と披露。

これには感心しました。小学校4年生が自分で落語を解釈して、自分のやりやすいように、また僕の邪魔にならないように気を使う。僕はかわいお弟子さんには自由に演じてもらうよう指導していますが、とても効果は出ているようです。いつか3人で旅したら、僕が仲間外れになっちゃうかな。

【次回予告】

次号は、柳家東三楼さんのエッセー第14回をお届けします。

 

 

 

柳家東三楼
(やなぎや・とうざぶろう)

東京都出身。
1999年に三代目・柳家権太楼に入門。
2014年3月に真打昇進、三代目・東三楼を襲名した。
16年に第71回文化庁芸術祭新人賞を受賞。
19年夏よりクイーンズ在住。
演出家、脚本家、俳優、大学教員(東亜大学芸術学部客員准教授)としても活動。
紋は丸に三つのくくり猿。
出囃子は「靭(うつぼ)猿」。
現在、オンラインでの全米公演ツアーを敢行中。
落語の無料オンラインレッスンあり、詳細はウェブサイトへ。
zabu.site

 

 

お知らせ
全米落語協会、発足!

日本の落語を、世界の「RAKUGO」へ! 東三楼さんの取り組みがいよいよスタートします。

4月1日より、クラウドファンディングも開始。支援に興味がある人は、メール(us.rakugo@gmail.com)で東三楼さんにご連絡ください。

 

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