ニューヨーク仕事人名鑑

ニューヨーク仕事人名鑑 #22 池上奈津子さん

困難に立ち向かい、今を全力で生きる日本人ビジネスパーソン。名刺交換しただけでは見えてこない、彼らの「仕事の流儀」を取材します。

※これまでのビジネスインタビューのアーカイブは、nyjapion.comで読めます。


「多くの人が歌を歌ったりダンスをしたりするのを楽しむのと同じように、私にとって最高の楽しみが不動産なんです」と話すのは池上奈津子さん。

もともとは金融業界出身で、バンク・オブ・ニューヨークやUBSといったメガバンクにも勤めていた経歴を持つが、長年の不動産投資という趣味が高じて、現在はマンハッタンやブルックリン、クイーンズの物件を扱う敏腕ブローカーとして当地で活躍している。

ビジネスアナリストや会計関係のポジションで金融業界にてキャリアを15年余り積み重ねる中で、キャリアチェンジしたのは自身の情熱である不動産投資の知識を増やし、人脈をさらに極めたいという思いからだった。

「それまで数字と向き合う仕事ばかりしてきたので、営業の仕事をするとは自分でも思っていませんでしたね」

競争が激しい不動産業界

スピードが目まぐるしい不動産業界は、激戦区であるニューヨークでは想像以上に激務だ。特にマンハッタンという競争率が激しいエリアでは、メールの返信が2時間遅れただけでクライアントを逃してしまうこともざらで、さまざまな人種がいることによって文化の違いやコミュニケーションギャップも大きい。この職に就いても1年目で約95%が離職するともいわれるほどだ。

不動産業は個人の裁量になるため、その分やれることにも際限がなく正解もない。体力的にも精神的にも過酷な仕事であるが、そんな中でも続けられているのは「やっぱり不動産投資が好きだから」と池上さんは語る。

多様な言語、そして文化が存在するニューヨーク。億を超える高額な取引もあるゆえ、強靭なメンタルと時には巧みな心理戦が必要なことも。「私は正直で嘘がつけないので、この職業では損するタイプかもしれません」と笑う。

救ってくれたのはスピリチュアルの学び

この厳しい業界で活躍してこられたのは、数字が得意な左脳派であると同時に、スピリチュアルの学びを重ねてきたこと、そして昔から人の気持ちを敏感に感じ取ってしまうとても繊細なタイプだったからではないかと言う池上さん。仕事や人間関係のストレスはあるけれど、ありとあらゆる心の勉強をしたおかげで、かなりのことに対応できる自分の土台ができたという。

「これまでの人生一生懸命走り続けてきたと思うんです。頑張るのももちろん大切だけど、結局は自分が好きなことを楽しむのが一番。それは今まで走ってきた自分があるから気付けたことですね」

金融業での豊かな経験とスピリチュアルの知見があるからこそ、数字を使った論理的思考と感情面の両面で、顧客にあったアプローチができるのが池上さんの強みだ。スピリチュアリティーを仕事や自身に役立てながらも、「まだまだ途上です」と笑顔を見せる池上さん。

現在は子育ての真っ只中で、授乳しながら仕事をこなす慌ただしい日々を送る。「子供を育てながら自分も成長させてもらっています。毎日の限られた時間の中でいかに大好きな不動産業でお客さまに喜んでもらって、癒やしを共有できるかが今の私の課題ですね」。

 

 

 

 

 

池上奈津子さん
不動産エージェント

来米年: 非公開
出身地: 東京都
好きなもの・こと: 不動産投資、ヨガ
特技: 計算、人を洞察すること

ウィスコンシン大学卒業後、ロヨラ大学シカゴ校でMBA取得。
銀行、金融機関勤務を経て、2008年より不動産エージェントとしてニューヨークの物件を扱う。
16年にブローカー資格取得。
18年に「COMPASS」入社。
日本語や英語での不動産セミナーも開催している。
compass.com/agents/natsuko-ikegami

 

 

 

 

               

バックナンバー

Vol. 1297

今話題のプランタンニューヨーク

今年3月下旬に、160年の歴史を持つフランスの百貨店プランタン(PRINTEMPS)が、ウォール街に米国初出店を果たした。「百貨店ではない」をコンセプトにした小売りの新時代を切り開く新しいリテールモデルを目指す、今号ではそんな話題のプランタンニューヨークの魅力を探ってみた。

Vol. 1296

いつだってキレイでいたいっ! 日系人に優しい! 最新「プチ整形」事情

男女問わず、いつでも若々しく美しくいたいという気持ちは誰にでもあるもの。しかしながら、美容整形大国の米国とはいえ、人種や肌タイプの違い、費用の高さや言葉の壁など、ローカルの美容皮膚科や美容外科に通うのはちょっぴり不安…。そんな読者の声にお応えし、今夏の日本一時帰国の際にも使える、日本の最新「プチ整形」事情をご案内していきます!

Vol. 1295

大人も楽しいブロードウェーミュージカル

ニューヨーク演劇界のアカデミー賞と言われる第78回「トニー賞」の発表(6月8日)が近づいてきた。コロナ禍による低迷から完全復活したブロードウェー劇場はどこも連日満席の賑わい。毎晩、40以上の舞台で超一流の歌や踊りや悲劇喜劇が繰り広げられている。ファミリー向けでロングランの「ライオンキング」「アラジン」「ウィキッド」「ハリーポッター」は相変わらず人気トップだが、中には大人の鑑賞にふさわしい作品もある。比較的新しい舞台を中心に成熟世代が気になるブロードウェーをご紹介する。

Vol. 1294

私たち、なことてま

気になるビジネスを深掘りする連載企画。今回は「丁寧・フレキシブル・手頃な価格」で親しまれる引っ越し業者ターザンムービングの代表・ホセさんと、個々の状態に応じてカスタマイズした施術を行う、マッサージ・セラピストの秋山さんに話を伺った。