ハートに刺さるニュース解説

米国の東京五輪

盛り上がらない五輪
放映権持つ局の利益

 

街中を歩き回ってやっと見つけた広告は、NBCの受付だった

新型コロナウイルスが沈静化されない中、東京五輪が無事に開催できるのかが、日本で大きな議論を呼んでいる。一方、大会で金メダルを最も多く獲得する国の一つである米国だが、五輪の広告さえ見ない。ホワイトハウスは、バイデン米大統領が開会式には参加しないと発表し、五輪は全く盛り上がっていない。なぜなのか。

「大統領は、五輪への参加は計画していません」。

ジェン・サキ大統領報道官は6月28日(米東部時間)、定例記者会見中の質問にこう答えた。米メディアによると、ファーストレディーのジルさんが参加する可能性はあるが、まだ検討段階だという。

このニュースは実は、日本では29日、速報となって広まり、「がっかりした」という声も聞かれた。「公衆衛生の専門家は、日本での新型コロナウイルスに対するワクチン接種率が9%と低いため、日本がスーパースプレッダーとなる可能性を秘めたイベントを開催することに懸念を示している」(政治ニュース専門のポリティコ)という状況で、高齢の大統領が参加を見送るのは当然とみられる。

今年4月、菅首相と日米首脳会談に臨んだ際も、バイデン氏はワクチン接種が完了していたにも関わらずマスクを付け続けたほど、警戒していた。

ちなみに、米国のワクチン接種率は18歳以上で67%となっている(7月5日現在)。

放映権を持つのは
米NBCだけ

首脳が開会式に出席しないだけでなく、米国では、日本のように報道が五輪一色になることはほぼない。

日本で五輪といえば、NHKと民放のニュース番組のトップで結果が取り上げられ、その後に特番まで毎晩ある。

これに対し、米国で五輪の放映権を持つのは、3大ネットワークテレビ局のNBC1局だけ。CNNも含め、他局では五輪の動画が流れない。日々のニュースの最後に金メダルの結果を知らせる画面に出るのは、選手の写真だけとなる。しかも、NBCは通常、プライムタイム(午後8時〜11時)まで映像を流さないため、テレビを点ければ五輪という日本の状況と大きく異なっている。

過去最高の広告収入や
放映権料を得る見込み

とはいえ、NBCは強気だ。NBCを傘下にするNBCユニバーサルのジェフ・シェル最高経営責任者(CEO)は6月14日、東京五輪では同社として過去最高の広告収入が見込まれ、「楽観視している」と語った。ロイター通信によると、最新の広告収入は明らかにしていないが、昨年3月時点では12億5千万ドル。 

NBCは、東京までの4大会で43億8千万ドルの放映権契約を国際オリンピック委員会(IOC)と結んでいる。1大会当たり10億ドル強の放映権料で、全米広告収入が12億ドルとすると差し引きは単純に2億ドル強となるだろう。

また、NBCはプライムタイムまで視聴者を待たせないために、ストリーミングサービスで全競技を7000時間流す。人気がある体操や水泳以外の「乗馬」などの競技に関心がある視聴者には嬉しいサービスで、これでテレビの視聴率には出ない多くの米市民が五輪を見ることになる。このため、テレビで放送しない競技では、オンラインとしては単価がいい広告収入が見込まれる。

五輪のうまみは
いつまで続くか?

しかし、日本で新型コロナ感染が沈静化せず、万が一五輪が中止となった場合、NBCが被るダメージはどうなるのか。NBCユニバーサルの親会社コムキャストのブライアン・ロバーツCEOは昨年、東京大会中止を懸念し、巨額の費用に対する保険に入っていたと明かしている。

「大会が実施されなくても、損失は被らない。利益が減るだけだ」とし、赤字にはならず、大きなダメージにはならないということだ。

ただ、大会が開催されてもNBCが懸念する理由はある。若い人を中心にNetflixなどストリーミングサービスを見る習慣が広がり、スポーツ離れを加速させていることだ。NBCにとっての五輪は、もはやうまみが薄れてきているのではないだろうか。

 

 

津山恵子
ジャーナリスト。
「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOなどに単独インタビュー。
近書に「現代アメリカ政治とメ ディア」(東洋経済新報社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

 

 

 

関連記事

NYジャピオン 最新号

Vol. 1245

春到来! 週末のプチお出かけ 〜ハドソン川流域・キャッツキル山麓編〜

桜の花も満開を迎え春の行楽シーズンがやって来た。ニューヨーク市内から日帰りできるハドソン川流域・キャッツキル山麓の人気のスポットを紹介しよう。

Vol. 1244

オーェックしよ

コロナ禍で飲食店の入れ替わりが激しかったニューヨーク。パン屋においても新店が続々とオープンしている最近、こだわりのサワードウ生地のパンや個性的なクロワッサン、日本スタイルのサンドイッチなどが話題だ。今号では、2022年から今年にかけてオープンした注目のベーカリーを一挙紹介。

Vol. 1243

お引越し

新年度スタートの今頃から初夏にかけては帰国や転勤、子供の独立などさまざまな引越しが街中で繰り広げられる。一方で、米国での引越しには、遅延、破損などトラブルがつきもの、とも言われる。話題の米系業者への独占取材をはじめ、安心して引越しするための「すぐに役立つ」アドバイスや心得をまとめた。