メトロノース鉄道に乗って行く 週末のプチお出かけ〜コールドスプリング編〜
メモリアルデーとともに本格的な行楽シーズンが到来。日帰りディストネーションとしてニューヨーカーに人気のパトナム郡コールドスプリングを訪ねてみた。
異なるジャンルで活躍する当地の日本人が、不定期交代で等身大の思いをつづる連載。
江戸時代は床屋や銭湯が町民の憩いの場でした。町人の生活を描く落語には「不精床」や「浮世床」といった床屋を舞台にした噺(はなし)があります。不精床はその名の通り、不精な店主が不精に客を扱うというなんともほのぼのとした一瞬を切り取った名作です。
懐かしき床屋の思い出の数々
子供の頃は父に連れられて、近所の床屋に月に一回行っていました。商店街にある小さなお店で親父さんと奥さんと息子さんの3人でやっていましたが、旦那さんが体を壊してからはカットが息子さん、顔そりが奥さんになりました。
小学校高学年になると父と行くのが恥ずかしくなり、平日の昼間に行って切ってもらい、ツケにしてもらって父が次に行ったときに払うようになりました。座って僕が切ってもらい出すと、商店街に住むクラスメートの女子が決まって3人ガラス越しに僕が切られているのに笑ったり手を振ったりしてちょっかいを出すので、僕は黙って目を瞑って気が付かないフリをしていたのを思い出します。
高校生になってからも通っていましたが、ある時息子のお兄さんにカットモデルをしてくれと頼まれて、隣町の美容室のスタジオでカットをして写真を撮られた時に全くおしゃれに思えず、それ以来行くのが嫌になって髪を少し伸ばして行く回数を減らしたのを覚えています。
母校の小学校に公演で行った帰りにそのお店のそばを通ったら変わらずやっていて、声でもかけようかと思ったのですが、髪を切っていかなきゃいけないのかな、と余計な思いが生まれ、やめました。僕もお兄さんもおじさんになって会うときっと不思議な気持ちになるでしょう。そしてお兄さんは、あの頃の親父さんのようになっているかと思うと、なんだか時間が経っていないようにも感じます。商店街もお店も30年前とほとんど変わってませんでしたので。
「ニューヨークイケメンスタイル」をオーダー
ニューヨークに来てからは友人のキヨさんに髪は全てお願いしています。ある飲み会で知り合ったのですが、当時極貧だった僕にキヨさんは「いつかビッグになってください」と無料で切ってくれていました。
そのキヨさんが去年、ニューヨークの街が大変な中、SOHOにご自分のお店を出しました。「KAZ SALON」という名前のお店です。僕はビッグにはなっていませんが、カット代は払えるようになっていましたので、ここはキヨさんに腕を振るってもらおうと髪を伸ばし、人生初めてのパーマを当てることにしました。
「ザブさん、どんな感じにしますか」「キヨさん、ひとつ、ニューヨークイケメンスタイルでパーマをかけてください」。その注文で出来上がったのが、画像の私です。髪はイケてますが、顔がイケてない。
髪を切りながら会話する楽しみ
これまで美容室でお喋りをすることは全くありませんでした。ところがキヨさんは歳も近く、話も上手で仕事がすごく丁寧なので僕はびっくりするくらいにお喋りをしています。このご時世、マスクをしながらですが、スポーツのこと、友人のこと、これまでのこと、いろいろと喋ります。美容室でお喋りするのは楽しいな、と40歳を越えて知ることとなりました。
そうか、落語に出てくる床屋さんはこういう感じか、いや違うな、とおしゃれな店内で思うのですが、一番近いのはエディ・マーフィーの「星の王子 ニューヨークへ行く(Coming to America)」のあのクイーンズの床屋かと、思い至りました。
あの店はみんながお喋りで、不精しそうな雰囲気も醸し出している。用もないのに遊びに行って髪を切る。パトリス・ルコント監督の「髪結いの亭主」での床屋で悪口を言い合う男同士の会話も近いかもしれない。
世界中のどこでも床屋や美容サロンなんて同じような会話をしているんじゃないかと想像すると、落語って良く出来ているなと思います。皆さんは髪を切る時に、どんな会話をしていますか。
【次回予告】
次号は、柳家東三楼さんのエッセー第12回をお届けします。
柳家東三楼
(やなぎや・とうざぶろう)
東京都出身。
1999年に三代目・柳家権太楼に入門。
2014年3月に真打昇進、三代目・東三楼を襲名した。
16年に第71回文化庁芸術祭新人賞を受賞。
19年夏よりクイーンズ在住。
演出家、脚本家、俳優、大学教員(東亜大学芸術学部客員准教授)としても活動。
紋は丸に三つのくくり猿。
出囃子は「靭(うつぼ)猿」。
現在、オンラインでの全米公演ツアーを敢行中。
落語の無料オンラインレッスンあり、詳細はウェブサイトへ。
zabu.site
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