プロスポーツから見る経営学

スポンサーの権利

選手の主張はあり?
対処に苦慮する問題

本原稿中に開催されているサッカー欧州選手権(UEFAユーロ2020)を皆さまも観戦していることと思います。特にアメリカ東海岸は時差の関係で見やすいのではないでしょうか?

この大会期間中にサッカーの試合ではないところで大きな話題となる出来事が起きました。事件が起きたのは現地時間6月14日(月)、ユーロ2020の試合前の記者会見の時でした。

ポルトガル代表のキャプテンのクリスティアーノ・ロナウド選手が記者会見に出席した際、彼の席の目の前にはユーロ2020スポンサーであるコカ・コーラのボトルが2本設置されていました。ロナウド選手は座ると突然それをカメラにも入らないところに移動させてしまったのです。そして一緒に置いてあった水のボトルを掲げて一言ポルトガル語で「水!」とアピール。コカ・コーラはユーロ2020のスポンサーです。ネットやSNS上ではこれは「ロナウド選手にしかできないこと」、とかこれを面白おかしく使った動画などがあちこちに拡散されました。

 

スポンサーが支払う
価値に対する権利料

一般的な視点からいけば珍しい光景かもしれませんが、スポーツビジネスにおけるスポンサーの視点からすると許されるものではありません。記者会見という世界中の人々の注目を浴びる瞬間であり、そこに自社製品や自社ロゴを掲出する権利には大きな価値が存在します。

記者会見中に喉が渇いた選手のために好みのものを選べるように各種ドリンクが置いてある理由もありますが、ここに自社製品やロゴを掲出することはスポンサーになる上で権利として約束されたものであり、決して安くはない権利料が支払われています。インタビューの邪魔になるから、と言って少し側に動かす程度であればテレビや写真に映る範囲内に残ればまだしも、今回のように完全に映像フレームから外れてしまう所まで動かすことはしてはいけないことです。

ロナウド選手が健康に人一倍気を遣うアスリートであることは周知の事実ですし、彼にしてみればコカ・コーラなど飲まないのかもしれません。ただしそれは彼個人の趣向であり、彼のスポンサーではなく、あくまでもユーロ2020のスポンサーであるのでそこに手出しをしてはいけません。ましてや自分はこれを飲まないから、とあのようにアピールする必要はなかったのではないかと思いました。例えるなら試合をするピッチの横に掲出されている各社看板の中から、自分の気に入らない会社の看板を選手が取っ払ってしまうのと同じことです。

運営する立場からも
重大な問題

ネット上ではこの行為によって瞬間的にコカ・コーラ社の株価が下落した、などの記事が出たり、返ってこれで話題になったのではないか、という各種憶測が飛び交うほどですが、大会を運営する立場からするとこのようなことが自分の大会で起きたらと思うと「うーん、どう対処したかな」と考えてしまいました。現実的ではないですが,その場に自分がいたらロナウド選手ににらまれながらも元にあった場所にスポンサー企業のために戻しに行けただろうか? などとまで妄想をしました。それほど何気ない動きであったかもしれないですが、スポーツビジネス的には重大な動きで個人的にはその映像を何度も注視してしまいました。

 

 

中村武彦

マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。現東京大学社会戦略工学研究室共同研究員。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。


スポーツマーケティング
ひとくち入門コラム④

スポンサーではなく、スポーツ団体 のパートナーになる目的が基本的には 10個存在するところまで前回お話しま した。一つ目は「認知度向上」。これは 文字通り自社及び自社商品の認知度 をスポーツチームやイベントを通して向 上させることを目的とします。

例えばまだ世の中にあまり知られて いない新商品を発売したり、会社名を 変更したことを知ってもらいたい時な ど。あるいは既に皆が認知しているブ ランドでも自分たちの存在感を出すた めにスポンサードをすることもあります。

例えばコカ・コーラなどはどのスポー ツイベントでも見かけますよね? 一般 的なもので言えば、スタジアム内の看 板などに宣伝やロゴを掲出する方法。 もう少しインパクトがあるのはチームの ユニホームにロゴを掲出するものまで 存在しますし、もっと強烈なインパクトを 持つのはスタジアムに名前を付けてし まう「ネーミングライツ」もあります。

この他にもいかに皆の目に留まる か、認知してもらうか、がポイントとなり、 ここを深掘りした各種アイデアを出し ていくこととなります。

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