Akoの真っすぐ俳優道inニューヨーク

Akoの真っすぐ俳優道inニューヨーク 第3回

異なるジャンルで活躍する当地の日本人が、不定期交代で等身大の思いをつづる連載。


ニューヨークで活躍している日本人の方たちとの対談編の第2回目として、前回に続き在ニューヨーク日本国総領事館の山野内勘二大使にお話を伺いました。

Ako:山野内大使は音楽がお好きだという話を伺っていたのですが、JAA震災義捐金集めのコンサートでのギター演奏を拝見し、本当にお上手で驚いたのです。小さい頃から音楽はお好きだったのですか?

山野内大使:母が音楽が好きで家にはオルガンとギターがありました。中学に入った頃から深夜放送で洋楽を聴いて好きになり、小遣いを貯めてレコードを買って聴くようになりました。そのうちに家にあったギターを弾き始め、学校の仲間とバンドを組みました。

Ako:米国ではアート関係の基金が大幅にカットされ、芸術家の活動に影響を及ぼしていますが、大使はアートへの支援はどのようにお考えでしょうか。

山野内大使:芸術をいかに支援するかは難しい課題です。医療、社会保障、インフラ整備、教育、国防などの予算と芸術のバランスの問題でもあります。芸術的な創造力は政治の介入から自由であるべきだと思います。一方、歴史に名を残すような音楽、絵画、文学の優れた作品はほとんどが時代を先取りしていて、当時の世の中に容易には理解されないのでパトロンが芸術を支えてきた。市場価値の現代、芸術家の皆さまがいかにコマーシャリズムに向き合い、作品を残していくか力量が問われます。作品のクオリティーを上げると同時に賛同者、良き理解者を見つけることも非常に重要だと感じます。

Ako:今のお話、血が沸き立つように思います。差し支えなければ、山野内大使が外交官の道を選ばれたきっかけをお聞かせいただけますか。

山野内大使:学生時代、自分探しをしていて、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」で、薩長同盟を取り持った竜馬を司馬遼太郎は「外交家」だと書いてあって格好いいなと思いました。外交官になりたいとひらめきました。

Ako:では司馬遼太郎さんに感謝ですね。

大使から若者へメッセージ

Ako:今日本からニューヨークへ夢を抱いて来て、日本へ帰らずに頑張っている若者達がたくさんおられます。大使からメッセージをいただきたいのですが。

山野内大使:ライト兄弟はオハイオ州でお金を作り、ノースカロライナ州へ移って実験を積み、ついに人類初飛行を実現したのですが、ノースカロライナの人々は初め詐欺師か狂人が来たと思ったんです。誰もができると思っていないことにチャレンジする時は迫害や中傷が必ずあると思いますが、それに負けなかった人だけが目的に到達する。

私は日本人学校の卒業式などでよくお話をするのが、アルファベットのVSOPの4文字です。「Vision, Strategy, O (Honesty), Passion。何であれ、ビジョンを持って大きな視野を持つ。でもビジョンだけでは物事は実現しないのでストラテジー(作戦)がなければいけない。ストラテジーというと目的のためには手段を選ばないというか冷徹なイメージがあり、時には非情さも必要です。ただそれだけでは成し得ない。そこに必要なのが誠実さ、ひきょうなことはしない、それがないと人は付いて来ません。

そして、この三つの大前提であり原動力が情熱です。この四つがあれば、動かないように見える巨大な山も動くと思います。どの分野でもVSOPをもって取り組めばきっと道が開けると確信しています。春の来ない冬はない、朝の来ない夜はない、嵐の後には虹が出る。一緒に頑張っていきましょう。

Ako:本日はたくさん素晴らしいお話をいただき、ありがとうございました。

〈後記〉多様な問題に対応していらっしゃる多忙な山野内大使に、心がワクワクする素晴らしいお話を伺うことができました。ご協力をいただいた総領事館広報センターの村上所長、水澤様に心から感謝致します。

 

 

 

山野内勘二

在ニューヨーク総領事・大使。
1984年外務省入省。
内閣官房副長官秘書官、北米第一課長、内閣総理大臣秘書官、アジア大洋州局参事官、在米日本国大使館公使、外務省経済局長などを務め、TPP交渉などで日米関係の発展に尽力。
2018年10月より現職。

 

【次回予告】

次号は、柳家東三楼さんのエッセー第10回をお届けします。

 

 

 

 

 

 

Ako (あこ)

宝塚音楽学校在籍中に毎日音楽コンクール声楽部門4位入賞。
同校を主席卒業後、歌劇団月組(芸名=夏海陽子)で新人賞、歌唱賞など受賞。
退団後は、NHK歌唱コンクールに入賞。
藤間流紫派師範名執「藤間公紫」となる。
TV・舞台に出演後、ニューヨークに渡る。
2019年にはPrimary Stagesの「GOD SAID THIS」のまさこ役で、ルシル・ローテル主演女優賞にアジア人で初ノミネート。
18年に日米両語の非営利劇団「AMATERASU ZA」を立ち上げ、芸術監督を務める。
ako-actress.com

 

 

お知らせ
新作公演、準備中!

Akoさん率いる非営利劇団「AMATERASU ZA」は、2021年12月に新作舞台「忠臣蔵 四十七士」を上演予定です。現在、絶賛稽古中! 続報はウェブサイト(amaterasuza.org)を参照ください。また、同劇団はウェブサイトで寄付も受け付けています。

 

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