ハートに刺さるニュース解説

大統領就任から100日

再び動き出した米国
「大きな政府」を推進

就任後初の施政方針演説が行われた(写真はMSNBCより)

ジョー・バイデン氏の大統領就任から100日が経った。新型コロナウイルス対策で国民に現金を支給し、ワクチンも無料で急速に接種を進めるなど、「大きな政府」がカムバックした。しかし、雇用が伸び悩むなどの課題も抱えている。

「就任100日でワクチン接種1億回を目標にしていたが、92日で2億回を達成する」(4月21日)、「7月4日の独立記念日までに、成人の70%にワクチン接種を少なくとも1回行う」(5月4日)と目標を設定し、クリアしては、次の目標を設定する目まぐるしい3カ月超だった。

5月4日には、米ファイザーのワクチンについて、米食品医薬局(FDA)が12歳〜15歳への接種許可を拡大した場合、全米2万カ所の薬局で同年齢に接種する準備があると発表した。

米紙ニューヨーク・タイムズによると5月11日時点で、2回のワクチン接種が終わった成人が全米で35%、1回接種が46%。4月中旬から日々の接種回数が減少し始め、46%から70%に引き上げるには、ひと工夫が必要だ。

突出した景気刺激策
大統領令発動も過去最多

ワクチン対策だけではない。就任100日間で導入した景気刺激策の規模でも、バイデン政権は過去に比べて突出している。まず、コロナ追加経済対策として成人一人に対し1400ドルの現金給付を含む「米国救済計画」法案を議会で成立させた。さらに、新たなインフラ投資計画である「米国雇用計画」は2・3兆ドル、育児や教育、福利厚生などの「米国家族計画」には1・8兆ドルの歳出を求め、景気対策の総額は6兆ドルに上る。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、過去で最大だったのは、クリントン政権の2・6兆ドルで、バイデン政権ではその2倍超に達した(金額は、2021年のドルを基準に調整)。

また、就任後100日間で、政府や軍に対する行政命令である大統領令の発動も過去最多となった。1月20日の大統領就任宣誓式直後に17件に署名し、4月30日には40件に達した。前任者、トランプ前大統領の行政措置をトランプ政権前に戻すため、大統領令が増加した。

初の施政方針演説
差別は「テロ」と明言

4月28日、バイデン氏は国が向かう方針を議会と国民に発信する初の施政方針演説を上下両院合同会議で明らかにした(2年目からは、一般教書と呼ばれる)。危機の最中であり、多くの国民が、テレビ中継やストリーミングで演説を見守った。

メッセージは明快だった。バイデン政権は大規模な財政出動を伴う「大きな政府」を推進する。新型コロナウイルスで傷ついた米社会と経済を全面的に支援する。その代わり、国民もさっさとワクチンを打つという義務を果たし、急回復に結びつけるというものだ。バイデン氏は、「就任100日で米国は再び動き出した」「21世紀を勝ち抜くため、中国や他の国々と競争していく」と述べ、コロナ禍ののちの急速な成長の道筋を国民に示した。

演説中には、歴史的な瞬間もあった。「最も致命的なテロの脅威は白人至上主義だ」と語ったことだ。おそらく、バイデン氏が副大統領時代、当時大統領だったオバマ氏が、発したかった言葉だろう。しかし、マイノリティーの黒人としては言えなかった。白人男性のバイデン氏は、あえて白人至上主義による黒人やアジア系などマイノリティーに対する差別を「テロ」と言い切った。

女性や移民に対する差別が吹き荒れたトランプ政権と異なり、人種差別の撤廃やLGBTQを保護するための法律にまで触れ、多様性を強調した。

バイデン氏は、黒人で女性初のハリス副大統領にこう呼び掛けた。

「マダム・バイス・プレジデント。この言葉をこの演台から発した大統領は過去にはいない。もう潮時だろう」

拳を付き合わせるフィストバンプをした。オバマ元大統領が候補だった2008年の大統領選挙集会でミシェル夫人とフィストバンプをした際、保守系メディアのアンカーが「テロリストの練習か」と揶揄(やゆ)し、批判を浴びたが、それはもう過去のこととなった。

 

 

 

津山恵子
ジャーナリスト。
「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。
フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。
近書に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

 

 

 

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