今年9月にアラ&
異なるジャンルで活躍する当地の日本人が、不定期交代で等身大の思いをつづる連載。
Akoです。日本で子役から宝塚を経てニューヨークで劇団を立ち上げるまでを、同じようにニューヨークで活躍している友人達との対談も入れながらのコラムです。よろしければお付き合いください。
はーるばる来たぜ
ニューヨーク♪
1981年1月15日のJFKは雪だった。大きなトランクを引きずり、タクシー乗り場で、雪と何日も洗車していないであろう汚れで灰色に覆われた黄色っぽいタクシーに乗り込む。
数カ月前に1週間ほど学校の手続きや住む場所を決めるために来た時は、初めての外国旅行の興奮と明るい秋の日差しでキラキラしていたニューヨーク。これから最低2年間の学校生活を送り、今までの日本での生活を休止して新しい一歩を踏み出す、高揚と怖さとが入り混じっている私に、雪で色彩をなくしたかのニューヨークは「さあ、覚悟はできてる?」と改めて問いかけて来るようだ。
予約しておいた、95丁目のアパートホテルに着く。何とも得体の知れない匂い(後で分かったが、ベーコンを料理した匂い)が充満している薄暗い廊下を通り、部屋に入る。窓からは近くのビルの屋根や煙突から立ち上る暖房の煙が見え、私が外国にいることを教えてくれる。
次の朝は良い天気だった。まず感じたことは「あー、私は自由なんだー!」。そして、窓を開けて冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。どうしてこんなことを40年も経った今でも覚えているのだろう。私の五感が、いや細胞の一つ一つが、プチプチと音を立てて新しい情報を取り込もうと全開になっていたのだ。別に日本で自由でなかったわけではないし、それまでも自分で生き方を決めて来たのだが、引きずっていたもろもろを取りあえず断ち切って来た開放感かもしれない。
9歳のオデット!
私は母の実家、福井県武生市で生まれた。育ったのは東京の恵比寿。愛育幼稚園から東京女学館、そして宝塚音楽学校と恵まれた学校生活を過ごした。
両親も祖母も映画や歌舞伎や宝塚やバレエが好きで、私を連れていろいろな劇場に行っていた。クラシック音楽好きの父がレコードをかけると身体を動かす私を見て、両親が幼稚園時代に近くのバレエ教室に連れて行き、そこの先生の勧めでその頃吉祥寺にあった橘バレエ学校に入学。同バレエ学校の公演で、9歳で白鳥の湖の第2幕のオデットを踊った。
宝塚の先輩で橘バレエ学校、東京女学館、宝塚歌劇団と同じコースをたどられた先輩に美国亜耶(あや)さんがおられる。現在はハワイ在住で、ハワイに行く度にお目にかかって昔話に花を咲かせる。
外へ出てお友達と
遊びましょう
小さい頃から、本を読むのが大好き。本を買って与えてもあっという間に読んでしまうので、音を上げた両親が、少年少女世界文学全集を毎月購入してくれたが、それも3、4日で読み終わった。通信簿に受け持ちの先生から「休み時間は教室で本を読まずに、外へ出てお友達と遊びましょう」と書かれた。
お父さまはお仕事が
なくなりました
ちょうどそのころ、父が勤めていた貿易会社が破綻。そしてなぜか同時期に、父が保証人となっていた義弟の借金のカタに恵比寿のわが家を取られ、借家住まいになり、その後渋谷のアパートに移った。
学校の月謝も滞るようになったが、担任の先生は私の態度に何も変化がなかったので、そんな事情があったとは全く気付かなかったそうだ。
その時、父母は「お父さまはお仕事がなくなり、お金がなくなりました。これからは新しい制服や洋服は買ってあげられませんが、お母さまがきれいに洗濯をして、ほころびたら継ぎを当てますが、何も恥ずかしいことではありませんから、あなたたちは今まで通りに学校へ行き、よく勉強してください」と私たちきょうだいに言った。
そして、両親は2人で方方の会社に頼んで小さなスペースを頂き、オーダーメードのワイシャツの注文販売を始めた。私たちはいわゆる鍵っ子になり、学校から帰ると洗濯物を取り入れ、米をとぎ、勉強をしながら両親の帰りを待つようになった。(続く)
【次回予告】
次号は、柳家東三楼さんのエッセー第4回をお送りします。
Ako (あこ)
宝塚音楽学校在籍中に毎日音楽コンクール声楽部門4位入賞。
同校を主席卒業後、歌劇団月組(芸名=夏海陽子)で新人賞、歌唱賞など受賞。
退団後は、NHK歌唱コンクールに入賞。
藤間流紫派師範名執「藤間公紫」となる。
TV・舞台に出演後、ニューヨークに渡る。
2019年にはPrimary Stagesの「GOD SAID THIS」のまさこ役で、ルシル・ローテル主演女優賞にアジア人で初ノミネート。
18年に日米両語の非営利劇団「AMATERASU ZA」を立ち上げ、芸術監督を務める。
ako-actress.com
お知らせ
新作公演、準備中!
Akoさん率いる非営利劇団「AMATERASU ZA」は、2021年12月に新作舞台「忠臣蔵 四十七士」を上演予定です。現在、絶賛稽古中! 続報はウェブサイト(amaterasuza.org)を参照ください。また、同劇団はウェブサイトで寄付も受け付けています。