プロスポーツから見る経営学

ワクチンパスポート

ワクチン接種の促進
義務化で差別の恐れ

新型コロナウイルス感染症へのワクチン接種がアメリカでは速いスピードで展開され始め、4月20日時点で人口の約26%に相当する約8540万人が完全に接種を終えています。今議論になっているのは、アンドリュー・クオモ州知事の指導の下、ニューヨークで最近試験的に導入が発表されたワクチンを接種済みか否かを示す「ワクチンパスポート」です。

航空券のように携帯電話などにバーコードが表示され、ワクチンを接種したか、陰性かどうかなどを簡易に証明するものです。既に民間企業が各々オリジナルのアプリを出しており、その数は20個近くといわれています。一見便利な話に感じますし、これがあればいろいろと簡易になるのではないかと思われがちですが、実はこれが大きな暗い影を落とす可能性も秘めています。

 

米国内で急速に進んでいる新型コロナウイルスのワクチン接種

 

差別へつながることも
州ごとに異なる法制度

アメリカは州によって法律が異なる連邦国家。住んでいる場所によって法律もルールも異なります。例えば、MLBの「テキサス・レンジャーズ」がまさかの3万9000人ものファンをスタジアムに入れて試合を開催したことが大きな批判にさらされました。ジョー・バイデン大統領でさえ、「間違っているし、無責任だ」と公式にコメント。確かに、テキサス州はコロナ禍で人が集まる人数への規制を敷いていません。

このような背景があり、ワクチンの接種状況も州によって大幅に異なっています。言い換えれば受けたくともまだ受けられない人も大勢いる状況で、加えて宗教上の理由や、個人的な理由で接種をしない、またはできない人々も大勢存在するのです。それ故に、これを公式に導入すると、ワクチン接種の有無で新型の「差別」が起き得るのです。実際、ワクチンへの不安を抱える人が、ワクチンを受けない選択をしたことで職場より解雇になってしまった事件も国内では起きています。

アプリが義務化されるには、まだまだ法制度の観点からも簡単には至らないと思います。そもそも人が抱えている病気などは個人情報であり、プライバシーの問題で公表する必要はないものだからです。加えて言うなれば、「今回のコロナウイルスへのワクチン接種状況をパスポート化し、それがないと身動きが不便になる」「次に出現するであろう病も、同様に管理しなくてはいけないのか?」「自分の健康状態を常にオープンにしないといけない世の中になるのか?」と、キリがなくなってしまいます。

深い部分まで監視されることにもなり、現在はニューヨーク州のみ試験的に導入されていて、個人的には驚くばかりです。

義務化も視野に?
スポーツ界で行われる試験的導入

このアプリはスポーツ界でテストとして2月27日に開催されたNBAの「ブルックリン・ネッツ」の試合や、NHLの「ニューヨーク・レンジャーズ」の試合でも使われました。あくまでも、現在は国としての介入の動きはまだなく、バイデン大統領も米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)所長のアンソニー・ファウチ氏も、「政府による義務化はない」と明言していますし、フロリダ州もこのようなパスポートやアプリを公に使用することを禁止しました。

しかし、民間企業においてはこれを導入する可能性が出てきます。言い換えれば、当然大勢のファンが集まるスポーツイベントでの導入は、早い段階で議論されることになるのは容易に想像できます。利便性や簡易性など、皆が求めるものは理解しつつも、分断や差別、それを取り壊す「一体感」と「共有」を体現する存在であるスポーツがどのような答えを出していくのか、とても重要な局面を迎えるのではないかと考え、注視していきたいと思っています。

 

 

 

 

中村武彦

マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。現東京大学社会戦略工学研究室共同研究員。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。


スポーツマーケティング
ひとくち入門コラム②

移民国家だからこそスポーツをビジ ネスに活用することが最も効率的であ ることを前回解説しましたが、「スポー ツをマーケティングに活用するって?」 という疑問があるかと思います。そこで まずはスポーツをマーケティングに使う とはどういうことかを解説します。

まず、企業とスポーツチームがパート ナー契約をしたからといって勝手に企 業の事業が拡大しないことは想像でき ると思います。企業がパートナーとして スポーツチームと契約する際には「どう してパートナーになるのか?」という目 的を設定し、それをスポーツチームにも 「協力」させなくてはなりません。

なので、今の時代はもう「スポンサ ー」とはあまり言わず、あくまでも対等な ビジネスパートナーとして、契約書の中 でお互いに約束したことを「一緒にパ ートナーとして」実行に移すことが必要 となります。

どこかのスポーツチームに自分の会 社のロゴを出しただけでは何も目的は 達成できませんので、宣伝広告の担 当者の方は注意しましょう。

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