今年9月にアラ&
異なるジャンルで活躍する当地の日本人が、不定期交代で等身大の思いをつづる連載。
はじめまして、落語家の三代目柳家東三楼(とうざぶろう)です。
さくらラジオで「三代目柳家東三楼のアメリカよもやま噺(ばなし)」のパーソナリティーを毎週務めていますので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。普段は三代目は付けませんし、柳家とも名乗っていません。世間の皆さまは東三楼師匠と呼んでくださいますが、気軽に「ざぶちゃん」でお願いいたします。
今回から基本、月に3回、こちらNYジャピオンでエッセーを連載させていただきます。どうぞ遊び気分で楽しく読んでいただけますと幸甚です。
一念発起の
ニューヨーク
僕は日本で20年ちょっと噺家として活動し、古典落語を中心に演じ、生活の糧を得て生きておりました。2014年3月に社団法人落語協会に認められ、真打ちに昇進し、「三代目柳家東三楼」を襲名しました、というのが僕のごく大雑把(ざっぱ)な半生でございますが、残りの半生はアメリカで生きていこうと19年夏にニューヨークにアーティストVISAを取得し、移住して来ました。
これまで日本語でしかも江戸時代の噺を扱う関係で、英語は一言たりとも喋ることが許されない日本の伝統芸能の世界に住んでおりましたが、一念発起し、40歳を過ぎて英語の読み書き、聞き喋りをしているうちに英語でRAKUGOをしたくなり、フィリピンを皮切りにトロント、ニューヨークで20公演ほどしたのが18年の初頭でした。
公演が休みの日に紀伊國屋書店を出たあと見上げたブライアントパークからの摩天楼。冬の冷たい空気に澄んだ空、そびえ立つ摩天楼とマンハッタンの喧騒。僕は立ち止まって、目を閉じた途端に晴れ渡った空から稲妻に打たれたように脳天に直感が、「ああ、僕はこの街に住むんだ」と鳥肌とともに、全身に震えと確信が走り渡りました。
僕は直感に従います。この強烈な直感は二度目で、一度目は師匠権太楼(ごんたろう)に入門を決めた時で、21年に一度、人生を変える雷が落ちるようです。次の雷は想像もできませんが、そういう訳で僕はニューヨークに移住してきたのでありました。
落語は人生のさまざまな場面を描いております。時代が江戸や明治・大正ということで人と人との触れ合い、争い、恋ゴゴロなどを抽象化して人情の機微として捉え、現代社会にフィードバックできます。400年という時間の中で名人上手と言われた噺家、または名前の残らなかった先人によって洗練、淘汰され、現代のわれわれをもってしてもお客さまに感動していただけるのは、古典落語と言われる所以(ゆえん)かと思っています。
RAKUGOとは?
アメリカを中心に活動している現在、僕は三つのパターンで落語をRAKUGOとして英語で公演しています。一つは古典落語をプロットだけ残して、人物や状況、セリフは翻案し、現代のアメリカの物語として演じるものです。登場人物は、ジョンやスティーブンといった面々です。
二つ目は古典をアメリカでも分かりやすいように少し直して、古典を古典のまま英訳して演じるものです。日本の文化をRAKUGOを通して知っていただけるように、多少難しいことも残し、人物名も日本人です。
最後三つ目は、完全な新作落語で新しい物語を英語で書いています。現代のアメリカを含む世界で起こりうる出来事を笑いとしてコメディーにしています。
英訳は友人やプロに手伝って頂いておりますが、喋りやすい呼吸や間は演者にしか分からないので、少しずつ自分でも手を加えています。
僕の人生の使命は「落語をRAKUGOへ」世界中に広げていくことだと考え、感じ、生きています。今進行中の全米50州ツアーも達成を目指し、現在はオンライン50州ツアーも敢行中です。
このコラムでは皆様にRAKUGOが世界に広がっていく楽しさもお届けしたいと思っています。
【次回予告】
次号は、柳家東三楼さんのエッセー第2回をお届けします。
柳家東三楼
(やなぎや・とうざぶろう)
東京都出身。
1999年に三代目・柳家権太楼に入門。
2014年3月に真打昇進、三代目・東三楼を襲名した。
16年に第71回文化庁芸術祭新人賞を受賞。
19年夏よりクイーンズ在住。
演出家、脚本家、俳優、大学教員(東亜大学芸術学部客員准教授)としても活動。
紋は丸に三つのくくり猿。
出囃子は「靭(うつぼ)猿」。
現在、オンラインでの全米公演ツアーを敢行中。
落語の無料オンラインレッスンあり、詳細はウェブサイトへ。
zabu.site
お知らせ
全米落語協会、発足!
日本の落語を、世界の「RAKUGO」へ! 東三楼さんの取り組みがいよいよスタートします。
4月1日より、クラウドファンディングも開始。支援に興味がある人は、メール(us.rakugo@gmail.com)で東三楼さんにご連絡ください。