プロスポーツから見る経営学

市場拡大するeスポーツ

コロナも追い風に
投資家も注目の競技

弊社にてプロのeスポーツチームを立ち上げようと話をし出したのが2017年のことです。一緒にいた若いスタッフは何のことかよく分からない顔をして、むしろあまり乗り気ではなかったことも鮮明に覚えています。

そもそもeスポーツはなぜスポーツなのか? と聞かれます。これは第一にもちろん選手たちの反射神経やさまざまな身体的な能力も必要とされますが、ビジネスの「構造」がいわゆるリアルスポーツと同じで、収益源が「チケット」、「スポンサー」、「放映権」、「マーチャンダイジング」の四つだからと言われています。

チーム発足から日本にはまだほとんど認知されていなかった中で、なんとつい先日開催されたFIFA eクラブワールドカップにてわれわれが優勝を果たすことができたのです。

このワールドカップは4回目の開催で、弊社のチームは最多の3度目の出場でもありました。創設当初はeスポーツの説明から始まり、チームは2年連続赤字。昨年初めてトントンとするまでは、弊社の他の事業部で得た利益を投資し続ける状態でいました。

ただ海外事業を推進する弊社としては、日本の外ではこのeスポーツが着実に拡大していることは把握しており、スポーツビジネスが弊社の本業ですので、そこで得たノウハウをチーム経営に当てはめていく作業は間違っていないという確信がありました。

赤字が続くと弱気な気持ちにもなりましたが、弊社の若手スタッフたちが一生懸命に業界の勉強をしてくれた甲斐もあり、試行錯誤、意見の対立などを経て今ではeスポーツに関するコンサルティングの話も受託できるまでになり、誇らしく感じています。

 

ビデオゲームを用いた対戦を競技として捉えるeスポーツ

 

ビジネスとしては
博打的要素も

選手が強いということももちろん触れないといけません。現在、Blue United eFCに所属するアグ選手と、つぁくと選手は共にアジアを代表する選手にまで育ち、アジア王者としてワールドカップに出場しました。国内でもeJリーグが毎年開催されますが、その際には選手は期限付き移籍をし、今年はそれぞれ横浜Fマリノスと、セレッソ大阪の選手として出場し、好成績を残しました。

負けることも当然あるので博打(ばくち)的要素が多分にあり、きちんとチームとしてのブランド力や強さにこだわりを持っているのがここまでの成功要因ではないかと考えています。

現在eスポーツチームを保有する欧州のプロサッカークラブの数はここ2、3年で90を超え、急激に増加してきました。デビッド・ベッカム氏やネイマール選手などの有名なスター選手たちもeスポーツチームに出資をしたりオーナーになり、「競技」としての地位を確立してきました。

日本サッカー協会でも2年ほど前からeスポーツの日本代表が作られ、アグ選手が2年連続で招集されました。最新のFIFA公式ランキングでは、Blue United eFCは世界で5番目に強いチームとして認定され、競技の強さと、チーム経営の強さの両輪を上手に絡めていくことがわれわれの当面の目標となっております。

競技と事業の両輪
いかに継続できるか

特に現在のコロナ禍の影響でリアルなスポーツイベントが留保状態の中で、リモート・オンラインでプレーできるeスポーツにますます注目が集まってきているのではないかとも感じていますし、パートナー企業様も少しずつ増えてきました。海外の投資家からも引き合いが増えてきた中でここからどうやって競技と事業の両輪の強化を継続していけるか、そこが弊社としてのロマンであり、腕の見せどころだと考えています。

一度試合を見ていただくことができればと思います。思いの外興奮しますし、ご家族でリアルスポーツを観るのと同じ感覚でお楽しみいただけると思います。

 

 

 

 

 

中村武彦

マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。現東京大学社会戦略工学研究室共同研究員。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。


スポーツマーケティング
ひとくち入門コラム①

今月よりアメリカで主流であるスポー ツマーケティングを活用したビジネスの 拡大方法を解説していきます。

多民族国家アメリカでは、皆が同じ 方向を向くことはありません。アメリカ 人とはいえ、日系、中国系、ポーリッシュ 系など、さまざまな自国言語のニュース を見聞きします。

また、米国内のTVチャンネル数は 1000以上あり、新聞も都市毎に複数 存在。加えてSNSもあり効率的なマー ケティング活動は存在しません。

このような背景の下、皆が同じよう に見るものが三つだけ存在します。そ れは、①戦争のニュース、②大統領選 挙のニュース、③そしてスポーツです。

それゆえ、米国企業のマーケティン グ予算の大部分はスポーツに投下さ れています。移民国家だからこそスポ ーツをビジネスに活用する事が最も効 率的なのです。

アメリカでスポーツマーケティングに 使われている総額は年間約2兆円で す。スポーツビジネスの本場にてそれを 効果的に活用できるように本コラムで お役に立てれば本望です。

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