ニューヨーク仕事人名鑑 #9 野中ともそさん

困難に立ち向かい、今を全力で生きる日本人ビジネスパーソン。名刺交換しただけでは見えてこない、彼らの「仕事の流儀」を取材します。

※これまでのビジネスインタビューのアーカイブは、nyjapion.comで読めます。


「絵や文章を書くこと、音楽は昔から好きでした。趣味と仕事の境界は曖昧かもしれません」

そう話す野中ともそさんは、ニューヨークを拠点に現在小説家として活躍しているが、もともとは東京の音楽系出版社を経て、音楽系ライターをしていたという。ミュージシャンらの取材のためにニューヨークに訪れたことで、すっかり街の魅力にはまってしまい、思い切って移住を決断したのが1992年だった。

新人文学賞を受賞して小説家デビュー

キャリアの転機となったのは、幼少期に絵を描くことが好きだったことを思い出し、自然とニューヨークの街のスケッチを始めてみたことだった。その水彩画を日本の出版社に送ってみると、早々にイラストエッセー集の出版が決まった。それから次第に「長編小説を書いてみたい」という創作意欲に駆られ、応募した処女作が、思いがけず「小説すばる新人賞」を受賞。いきなり小説家としてのデビューを果たす。持ち合わせていた創作力と運の強さで切り開いてきた自身の人生を、「いろんなことがラッキーだったのかもしれませんね」と笑う。

まるで映像のような繊細な文章で、読む者をファンタジーの世界へと誘う野中さんの作品は、そのプロット作りも独特だ。

「美しい景色や音楽、その背景にまつわるストーリーに感銘を受けると、ラストシーンが映像としていきなり頭に浮かんできて、そのラストシーンを描きたいがために筆を走らせることが多いですね」

街や主人公の職業などを徹底的にリサーチして、リアルな人物像を組み立てることにも余念がない。

ファンタジー作品の『宇宙でいちばんあかるい屋根』は、昨年9月に日本で映画化も実現。自身も映画の制作の一端を担いながら、また新たな創作の世界を知った。

表現の幅を広げながら創作を続けていく

最近では、電子書籍の制作にも自らトライしている。表紙も自身が制作できることから、「手作り感があって本当に自分だけの作品だと感じられて楽しいです。コツコツ作っていこうかと」と、まだまだ創作意欲はとどまらない。

コロナ禍のおうち時間をきっかけに、私生活では和菓子作りやオンラインエクササイズ、卓球に挑戦。息抜きには、ローワーイーストサイドを散歩しながら人間観察をし、アンテナを張り続けることも欠かさないという。

コロナにより在り方自体が変わっている今の社会を受け、ニューヨークを舞台にとここ数年構想していた新作は、一からコンセプトの再考をせざるを得なくなった。しかし、「こういった社会的に厳しい状況では、フィクションやパフォーミングアーツはどうしても初めに難しい立場に追いやられてしまう。でも私は小説を読んでもらうことが一番うれしいので、細々とでも続けていきたいです」と前向きに語る表情は晴れやかだ。

好きなことを純粋に表現し続けることでキャリアを順調に築いてきた野中さん。今後もあらゆるアウトプットを駆使しながら、持ち前の探究心と感性を頼りに、さらなる進化を続けていくのだろう。

 

 

 

野中ともそさん
小説家

来米年: 1992
出身地: 東京都
好きなもの・こと: 和菓子作り
特技: くんせい機でなんでもいぶすこと
東京生まれ。
イラストレーター兼翻訳家。
1992年に渡米し、98年『パンの鳴る海、緋の舞う空』で小説すばる新人賞を受賞。
著作には『宇宙でいちばんあかるい屋根』『虹の巣』などがある。
今年2月には、映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』のブルーレイとDVDが日本で発売された。
www.tomoso.com

 

 

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