サミュエル・&#
困難に立ち向かい、今を全力で生きる日本人ビジネスパーソン。名刺交換しただけでは見えてこない、彼らの「仕事の流儀」を取材します。
※これまでのビジネスインタビューのアーカイブは、nyjapion.comで読めます。
ウェストチェスター、クイーンズ、ロングアイランドのナッソー……教員として運転技能も教えている大塚豊さんの1日の大半は、各地に住んでいる日本人受講生の元への車移動に当てられる。講習はオンラインになれども、実技練習には練習車が要るからだ。
「ミッドタウンの教室は使わなくなってしまったので、サブリースを募集することにしました」と大塚さん。業界を震撼(しんかん)させたコロナ禍をしみじみ振り返ってくれた。
理論的に、最大効率で教える力
運輸局(DMV)が昨年3月に機能停止して、同年6月までは新規受験ができなくなってしまった。同局は、仮免許の発行に必要な筆記試験を臨時でオンライン開催することに。しかし通常20問で構成される試験が、オンライン版ではなんと50問に増加。合格ラインのハードルが上がってしまい、多くの受験者らはオフライン試験を選んだ。
現在はオフラインの試験も機能し始めたが、いつもなら同日に受けられる筆記試験が2〜3カ月待ちということも珍しくない。車利用が前提のニューヨーク郊外に赴任して来た駐在者にとっては、今回のコロナ禍は痛手だ。ただ、悪いことばかりではない。同校は5時間の日本語講習をオンラインに切り替えた。おかげで今はニューヨーク州のどこからでも授業が受けられるように。
数ある自動車教習所の中でも、同校は「教え方」に定評がある。教員が全員、運転技術を感情や経験則ではなく「理論的」に説明できるカリキュラムは、米系の教習所でもほとんど持っていない。おかげで最近は、非日本語話者の生徒も増えているという。
「日本で免許を取得して来た人は、皆さん運転能力が高いです」と大塚さん。「ただ、日本のルールや運転経験に慣れてしまっているので、米国での『当たり前』に対応するのが難しいようです。ニューヨーク州は、特に実技試験の難易度が高い州ですからね」
例えば、日本では右左折時に一旦停止あるいは減速する。ところが米国では、「一時停止」の標識がない曲がり角でこれを行うと、実技の減点対象だ。理屈では分かっても、心身の順応には時間がかかる。日本人特有の弱点を、最大効率で克服できる方法を生徒と模索していくのがプロであり、同社の教員なのだと、大塚さんは話す。
次世代にバトンをつなぐ
大塚さんが来米したのは1989年。当初、別の目的で来米したのだが、さまざまな運命のいたずらを経て、当時の業界最大手であった日系教習所、安全自動車学校に就職した。8年ほど勤務したが、同校が閉鎖し、スタッフらと共にフジ自動車学校を設立した。
州が発行する自動車教習所の経営ライセンスは複雑な仕組みだ。経営が交代する際、新体制に共同経営者が1人以上続投していなければ、同じ学校として事業継続できない。これが、同校が直面している将来の課題だという。「若手スタッフの雇用と経営参画が必要」と大塚さん。
のんびり読書したり、音楽を聴くのが好きだというが、州内を車で回る忙しい日々はまだ少し続きそうだ。未来を担う後継者に出会うその日を、大塚さんは待っている。
大塚豊さん
「フジ自動車学校」取締役社長
来米年: 1989年
出身地: 埼玉県
好きなもの・こと: のんびりすること
特技: ギター
慶應義塾大学経営学部卒業。
家族経営の企業の経理事務などを経て、来米。
2000年に安全自動車学校に就職、08年に独立して、フジ自動車学校を創立。
Zoomを用いたオンラインでの日本語講習コース(5時間)の申し込みは、下記ウェブサイトから。