プロスポーツから見る経営学

新しいテクノロジーの継続

始めるだけでなく
末長い運用が肝に

バイデン大統領就任式が無事に執り行われ、2021年も心機一転という気持ちです。コロナ禍もみんなで助け合って、収束に向かうことができればと切に願っています。

さて本コラムにて数回に分けて紹介をしてきた通り、スポーツ界ではさまざまな変化に伴う柔軟性や、アジャストメントが必要とされています。デジタルの導入は必須事項であり、企業はもはや「新しいから」とか「よく理解できないから」などと言っている場合ではありません。

 

マラソン大会がバーチャル化するなど、スポーツ界は着実にテクノロジーの導入に順応しつつある

 

その場しのぎではない
テクノロジーの導入

ビジネスモデル自体も、チケットを販売して来場してもらうだけでは経営が成り立たない状況に変化したといえます。

ただし勘違いをしてはいけないのは、テクノロジーが全てを解決してくれるのではなく、それを「なぜ」「どのように」活用するのか? という、クラブの考えと意思がないとなりません。要するに、テクノロジーはツールでしかないのです。

テクノロジーを導入する上では、これに加えて、次の五つの点に留意することが大切だといわれています。

①既存の権利保有者の尊重(既存の権益を侵さない) ②安全である

③グローバルである

④収益の創出

⑤クラブ全体とファンのエンゲージ

そしてこれはコロナ禍の最中だけの一時的な、一過性なものではなく、コロナ禍が収束した後も継続していくための、中長期的視点が必要となります。

例えば、オンラインで試合を観るテクノロジーを導入したとして、再びスタジアムにファンが来場できるようになったらそのサービスを終了するのではなく、そのまま継続していくことで、リアルとバーチャルが並存できる「ハイブリッド」にしていく。これが肝となります。

以前このコラムで寄稿した通り、多くの企業・団体が、今、必要に迫られて、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら未来の新規事業を開発しています。

例えば、FCバルセロナをはじめとした世界中のサッカークラブが、自分たちは「コンテンツをクリエートする会社」であることを公言し、シフトし始めています。FCバルセロナが「ライバルはレアル・マドリードではなくネットフリックスだ」と言ったことは話題になりました。

今そのような投資をし、サービスを開始したものは、今後のコロナ禍収束後もクラブにとって重要な事業として、継続されていくこととなります。

新規顧客と新規事業
ハイブリッドに創出

私自身、昨年末にバーチャル・ホノルル・マラソン(詳細は左のコラム参照)に参加したのですが、これも2021年以降、継続されると聞いています。

コロナ禍がなければ生まれなかった発想でありますし、私も「ホノルルマラソンに参加してみよう」という気にはならなかったので、ホノルルマラソンはバーチャル化によって、新規ファン獲得と、新規事業創出を実現したことになります。

このように社会が変わり、消費者行動が変わり、それに伴いビジネスモデルも変更が余儀なくされた時に、どういう考えでテクノロジーなどを導入し、現時点の課題を解決しつつも、それがハイブリッドとして今後も継続できる事業になっていくのかまで考えることが、現在求められています。

恐らくこれはスポーツビジネスに限った話ではなく、広くどのビジネスにおいても同様なことではないでしょうか。

2021年がそのような拡大の年になるよう、これからもこの潮流に対するアンテナを高く張り続けたいと考えています。

 

 

<今週の用語解説>

バーチャル・ホノルル・マラソン

ハワイ州ホノルルで毎年開催されている「ホノルルマラソン」は、2020年12月に初めてバーチャルとして開催された。10月に参加登録が行われ、本番は12月1日〜31日のどこかで走るというもの。近所を走ったり、トレッドミルを利用してもOKで、合計で実際のホノルルマラソンと同じ距離を走破したタイムが採用される。また事前申請していれば、複数日に分かれて計測することも認められた。

なお、次回のホノルルマラソンは2021年12月12日の予定。

 

 

 

中村武彦

マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。現東京大学社会戦略工学研究室共同研究員。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

 

 

 

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