今年9月にアラ&
困難に立ち向かい、今を全力で生きる日本人ビジネスパーソン。名刺交換しただけでは見えてこない、彼らの「仕事の流儀」を取材します。
※これまでのビジネスインタビューのアーカイブは、nyjapion.comで読めます。
「『自分の顔を見て! 』という欲求は全くない俳優です。むしろ、声やしぐさだけでどこまで表現の幅を広げられるかを追求しています」
そうはにかむ村松志緒さんは、テレビコマーシャルや映画、ナレーションなどを活動の主な舞台としている。「住むなら舞台がメインのニューヨークよりも、西海岸の方がいいんじゃない?」と言われることもあるが、ニューヨークが大好きで、この地で活動を続けている。
せりふの話し方や演技に独特の色を持つ日本の演劇・俳優業界と比べて、アメリカではブロードウェーの俳優は声を張り上げないし、テレビ俳優の演技も日常的なものに寄せられている、と村松さん。「自然体な演技が好きです。カメラレンズ越しに、日常生活のような声のトーンで喋れる演技が理想ですね」
派手な街でこそ、仕事は丁寧に
役者および役者志望であふれるこの街で、村松さんは派手にSNSで宣伝して回るよりも、「地道な作業をやり続ける」ことに重きを置き、業界で信頼を勝ち得てきた。
「昔は、どんどん前に出ていく人たちを頑張ってまねしていたのですが、自分とはタイプがあまりに違ったので、やり方を変えました」
オーディションの話を持ってきてくれる事務所スタッフへの小まめな連絡はもちろん、キャスティング担当者にはオーディションの当落問わず、お礼状を送る。同業者には「こういうことがやりたい」と、自分のビジョンを積極的に共有してきた。
「自分の顔を忘れられないように気を配り、自分のやりたいことをピンポイントに見定め、そのためには何が必要かを確認していく。そうやって基盤を築いてきました」と村松さん。これまでの配役から自分の俳優としての需要傾向を分析し、それに近づけるように努力もした。
そして訪れる転換期
そんな村松さんのキャリアも、新型コロナウイルス感染拡大の余波を多分に受けた。ロックダウンを機に、撮影目前のテレビの仕事2件が突然延期に。声の仕事は、雑音が入らないようにクローゼットの中で録音したが、クライアントとの遠隔作業のおかげでリテイクに時間が掛かり、2時間で終わる仕事が10時間に膨れ上がったという。いまだに仕事の数自体も回復せず、状況はこう着している。
「感染予防は万全な状態で、日本に一時帰国してみようかなと考えています」と村松さん。正直なところ、就労ビザで在米している村松さんにとっては、この「待機」時間が何よりも惜しいという。
「今はオンラインでオーディションができるし、何より、新しいことに挑戦してみるチャンスかなと思いました。日本とアメリカでの、自分の市場需要の違いも見てみたいです」
これを機に、求められてきた役柄以外にも挑戦していきたいと話す村松さん。一時帰国を経た今後の見通しはほとんど未定だというが、話す表情は落ち着いていて、ワクワクに満ちている。キャリアに力強く根を張っているからこそ、ニューヨークのテレビ・映画業界が息を吹すその時まで、未知の領域で戦うという選択ができるのだろう。
村松志緒さん
俳優
来米年: 2011年
出身地: 東京都
好きなもの・こと:ヨガ
特技:人の誕生日を覚える
俳優養成学校のネイバーフッドプレイハウス出身。
テレビドラマ、コマーシャル、映画などで活動する。
代表作に映画「Bakemono」、テレビドラマ「The Other Two (シーズン2)」、Google社およびユニセフの広告。
ナレーションとしてSK-IIのCMなどにも出演。
Instagram: shiomuramatsu