ハートに刺さるニュース解説

米大統領選挙、オフラインvs.オンライン

果たしてどちらが勝利
党大会の「密」の行方

11月の米大統領選挙で一騎打ちとなる民主・共和両党の指名候補を選ぶ党大会が、8月下旬に連続して開かれた。民主党大会は8月17日から4日間で、ジョー・バイデン前副大統領を指名候補に、共和党大会は24日から4日間、ドナルド・トランプ大統領の再選をかけて開かれた。

民主党大会は、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、全てをバーチャルで開催。しかし、共和党はホワイトハウスに1500人のゲストを招くなどオフラインでの開催を貫いた。

違いは目にも明らかで、今後の両候補の争いも、バイデン氏がオンラインが中心、トランプ氏はオフライン中心になる可能性があり、新型コロナは今年の大統領選挙に大きな影を落とすことになった。

バイデン氏から副大統領候補の指名を受けたカマラ・ハリス氏

バーチャルにこだわる
民主党大会

民主党大会は当初、中西部ウィスコンシン州ミルウォーキーでの開催を目指し、筆者も今年1月、メディア向けの説明会に参加するためミルウォーキーを訪問した。共和党大会は、南部ノースカロライナ州シャーロットでの開催を予定していた。

民主党はこれを全てバーチャルに移行した。各州の代議員が、候補者に何票集まったかどうかを次々に発表する「ロールコール」は、それぞれの州の名所で、代議員が社会的距離を取りながら、マスクをして発表した。メイン州は名物カラマリを持ったシェフが立ち合うなど、郷土色が出ているのは、例年と異なり興味深かった。

カマラ・ハリス副大統領候補、バイデン大統領候補の指名候補受託演説も、一部のメディアしかいない会場で行われた。通常であれば数千人を超える代議員や支持者から、音楽が聞こえなくなるほどの大歓声を浴び、数千個の国旗のカラーの風船が会場の天井から候補者らに振り注ぐが、そうした演出も皆無。さすがに演台に立つスピーカーや候補者が一瞬戸惑った表情をしていた。唯一オフラインだったのは、バイデン氏の受託演説の直後で、彼の選出州である東部デラウェア州の駐車場で、支持者が社会的距離を取って自家用車を駐車し、演説を終えたバイデン氏をクラクションなどで迎えた。

米政治史上初めてのオンライン党大会だったが、興味深い点もあった。有権者のカテゴリーに分かれてさまざまなスピーカーが登場したが、高画質で撮影されており、テレビで視聴した党員のエンゲージメントは高かっただろう。数千人が集う大会では、飲食に出入りしたり、4年ぶりの打ち合わせで会場外に出たり、集中度はこれほどではないだろう。

「密」、「ホワイトハウス」
何でもアリな共和党

これに対し、共和党はトランプ氏に「フォー・モア・イヤーズ!」と唱和する支持者が、3日間に渡りワシントンの現地にいる状態で大会を進めた。

これについて、二つの疑念が起きた。一つ目は、25日にローズガーデンで行われたメラニア・トランプ夫人の演説に200人が集まったこと。最終日27日には、サウス・ローンに1500人が肩が触れ合う距離に座り、マスクをしている支持者は極めて少なかった。新型コロナの感染が収束していない中、民主党支持者にとっては危険に見える「密」の状態だが、共和党支持者は「新型コロナはすぐになくなる」と言ったトランプ氏の言葉を信じている。

二つ目の疑念は、ホワイトハウスという政権の中枢の建物を使ったことである。ニューヨーク・タイムズなどによると、選挙戦などに政権の建物や敷地を使うことを禁じる法律がある。政治色が強い行事に使われると、「政治不信」につながるというのが理由だ。

しかし、トランプ選挙陣営は、メラニア夫人他、家族全員のスピーチ、そしてトランプ氏の70分におよぶ受諾演説をホワイトハウスで行った。招待された支持者や関係者には一生に残る思い出となるだろう。

バイデン氏は党大会後、新型コロナによるロックダウン後初の選挙集会も、社会的距離やマスク着用を要請するかたちで始めた。しかし、トランプ氏の集会ほど「密」ではない。この差が、11月の選挙結果にどう影響を及ぼすのか。予想がしにくい状況になっている。

【今週の用語解説】

カマラ・ハリス

カリフォルニア州オークランド出身で、インド系およびジャマイカ系アメリカ人。ロースクールを卒業後、地方検事、カリフォルニア州の司法長官を務め、2017年から連邦上院議員のキャリアを歩んでいる。今回の大統領選挙にも当初は出馬していたが、予備選が本格化する前の昨年12月に離脱。就任の日までに78歳になるバイデン氏は、最高齢の大統領になる可能性があり、ハリス氏を「移行候補」と認めている。

 

津山恵子
ジャーナリスト。
「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOなどに単独インタビュー。
近書に「現代アメリカ政治とメ ディア」(東洋経済新報社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

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