今年9月にアラ&
コロナ禍のいま、
スポーツにできること
COVID_19の影響で多くのスポーツはもちろん、さまざまなイベントが中止・延期となり、そして学校やビジネスまでもが閉鎖になって、ずいぶんと日にちが経過しました。
このような時だからこそ、スポーツの意義に関して、大学院生時代に議論を交わした講義(Sociology of sport=スポーツ社会学)を思い出しました。
人が困っている時に、スポーツイベントを開催するべきか否か。当時、クラスのある人は、「そのような時期だからこそ、みんなを励ましたり、勇気を出してもらうために開催するべきではないか」という意見を述べましたが、「スポーツは娯楽でしかなく、そのような時期にスポーツを楽しむ余裕もないから、開催しない方が良い」という人も。9・11米同時多発テロ直後の授業であっただけに、議論が白熱したことを覚えています。
当時は大学院生でしたが、今は自分自身がスポーツビジネスの会社経営をする立場におり、いろいろと考えさせられます。
弊社は一般的なコンサルティング会社ではなく、自社でプロのスポーツチームやイベントも保有しているので、社内でも議論が活発に行われます。
ビジネスというより、スポーツ社会学の観点から、試合が開催できない状況の中で、「スポーツがどうこの状況に貢献できるか」ということに関して、今回は少しお話しさせてもらえればと思います。
ファンあってのチーム
三角形の関係が重要
スポーツマーケティングの特性として、「ファンエンゲージメント」というものがあります。そのまま日本語訳できる単語はなかなか見つからないのですが、「いかにファンを巻き込むか」ということだと考えています。
試合がある時のファンエンゲージメントは、容易に想像がつくと思いますが、現在のような試合が開催できない時であっても、ファンあってのチームなので、「どのようにファンを巻き込むことができるか?」を考えなくてはいけません。
本コラムでも何度か解説してきましたが、試合や勝利を売るだけがスポーツビジネスではありません。その原点に戻ると、試合がなくともファンがチームのことを話題にして楽しめること。そして、チームをハブとした、ファンや地域をつなぐ役目を提供し続ける必要があります。
試合がないからファンが離れてしまうのではなく、たとえ試合がなくとも、チームが「ファン同士」をつなぐこと。「チーム=ファン」の1対1の関係性ではなく、「チーム=ファン=ファン」の三角形の関係が、最も重要になってきます。
場所を問わない
ファンへの工夫
インターネットを見ていると、マンチェスターシティーFCは、人気選手のデビュー戦と、その当時の心境を、選手本人とその家族にインタビューした動画を公式SNSで流したりしています。
また、Jリーグの鹿島アントラーズの場合は、地元の飲食店でデリバリーなどのサービスを提供している店のリストを、公式サイト上にまとめて掲載しています。ファンが簡単にオンラインでオーダーできるプラットフォームを構築するなど、ファン同士が楽しめたり、役に立つ企画が実施されています。
もちろん、チャリティーにも大きく参加しています。チャリティーを行う場合は、あくまでもチャリティーのために活動を行うべきで、自分の宣伝やPRにそれを使う人やビジネスが散見されたことは、残念に感じました。
話がそれましたが、このようにスポーツチームの魅力やアセットは試合だけではないですし、このような状況だからこそ、ファン同士が盛り上がれるような企画、ファン、そして地域のよりどころとなれる工夫を設けることが、大切だと考えます。
5月24日、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事が、ニューヨークにおけるスポーツチームのトレーニング施設での練習再開を許可しました。いずれ開催される試合については、無観客試合などの様相です。しかし、これから少しずつではあると思いますが、スポーツそのものがまた観戦できる日が戻ってくることを祈念しております。
<今週の用語解説>
ファンエンゲージメント
スポーツチームにおいて、「チームのファン」こそが最も重要と考える、スポーツマーケティングを取り入れた、ファンの獲得、関係性に重きを置く取り組み。ファンはチームの応援、チケット・グッズ購入などに投資を行い、チームは試合や選手の情報、特典を提供することで、ファンを支えている。「チームの勝利」という共通目標に向け、互いに協力体勢を組むことで、相乗効果を得られる。また近年は、試合以外にもテレビやSNSなどを通じて発信することで、交流方法が変化し、ファンと選手の距離がより身近になった。
中村武彦
マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。
08年アジア市場総責任者就任、パンパシフィック選手権設立。
09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。
ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。FIFAマッチエージェント。
リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。