プロデューサー、演出家平野綾子Xひろしま平和大使中垣顕實

テーマ:アメリカで伝える平和

広島・長崎での原爆被害を後世に伝えていく活動をアメリカで展開している、平野綾子さんと中垣顕實(けんじつ)さんが、互いのライフワークについて語り合った。


平野さんは現在、日本にお住まいですよね。

平野 原爆被害に遭った父娘が主役の演劇「父と暮らせば」を海外で上演することをライフワークにしていて、ニューヨークやボストンを行き来しています。

——初めてニューヨークに来たときの印象は?

平野 怖い街かなと思っていたのですが、私のかばんが開いていたら知らない人が教えてくれたりして、親切だな、と。

中垣 今でこそ安全ですが、昔はなかなか怖かったですよ。私は1994年から住んでいますが、当時は人通りが少ないところで、銃を突き付けて恐喝(きょうかつ)されることも結構ありました。

平野 そうなんですか!?

中垣 そうそう。あと、ニューヨークの人は赤信号でも平気で渡りますけど、あれも元は、信号待ちの間に誰かに襲われないようにするためだったの。私の車は窓ガラスが割られて、ワイパーなどの部品が、毎日少しずつ取られていったり(笑)。

平野 怖っ!

中垣 当時のマンハッタンは、「街が生きている」といういう強いエネルギーを感じました。

そんなニューヨークで2人が出会った経緯は?

平野 2年前、ニューヨークで「父と暮らせば」を上演したくて、後援者を探していたとき、共通の知人に中垣さんを紹介してもらいました。

中垣 私は資金を持っているわけではありませんが、長くニューヨークに住んでいるから、人を紹介することはできる、と。限られた資金で、ずっと平和式典を開催し続けてきたので、そういう工夫の知恵はありますし。

平野 やっぱり資金の用意が一番大変ですよね。

中垣 ニューヨークは面白いことをやる人が多くて、活発なエネルギーに満ち溢れていたのですが、9・11(同時多発テロ事件)があってからは街も少し変わりましたね。昔いた人も去り、同時に新たに人が入り、変化しています。ニューヨークのチャレンジ精神は大切だと思っていて、希望を持って頑張っている人には手を差し伸べてあげたいと思います。

平野 でも、ニューヨークは頑張っている人を応援してくれる街だと思います。突然「会って話がしたい」と連絡を入れても、アポを取り付けて会ってくれる人が多いと思う。動くと結果が出て、かたちになる。日本ではこうは行きません。メールの返事が来ないことも当たり前ですし…。

—2人共、日本の戦争の悲惨さをアメリカで伝える活動をしていますが、当地での活動に不安はないのですか?

中垣 私が平和式典を始めたのは、「宗教の壁を越えて、みんなで犠牲者のために祈念し、平和について考えることができる場がほしい」という、さまざまな宗教の関係者からの要望を受けたものです。でも、初開催当時の日系コミュニティーからは、「やらないでほしい」という声も多く聞こえました。「日本に原爆を落とした国で、目立つ活動をするのは良くない」と。

平野 私もよく、「アメリカ人から反感を買わないのか」など心配されますね。「そんな活動をしていて大丈夫なの? 銃社会でしょ!?」って(笑)。でも私が学んだのは、「伝えないことは無視することと同じ」だということ。日本人として、伝えられることは伝えていきたいです。

中垣 そう、伝えることが大事なんです。「日本人が声を出さなければ、原爆の(恐ろしさを伝える)ことはそこで終わってしまう」と、アメリカ人から言われました。実際、第1回目の式典にも、日本人よりもアメリカ人の方が多く出席してくれましたよ。

平野 移民の国ということもあって、広い考え方をするのかな。考え方が十人十色。日本は独自の文化が濃縮されていて、それはそれでオリジナリティーがありますけどね。

伝えないことは無視すること —平野

壁を越えて祈る場を作る —中垣

 

 

写真左:中垣顕實(けんじつ)

大阪府出身。1985年に海外開教使として、西本願寺より北米開教区に派遣された。2010年よりフリーランスとして活動。ニューヨーク平和PRFファンデーション創始者兼会長。長崎平和特派員、ニューヨーク仏教連盟前会長。sites.google.com/site/kenjitsunakagaki/home

 

写真右:平野綾子

大分県出身。ジャパン・アクターズスクールにて芝居・歌・ダンスを学ぶ。2015年から舞台の企画・プロデュース・演出を手掛けている。ボストンとニューヨークにて、舞台「父と暮らせば」を北米初演するためのクラウドファンディングを、17年に開始。戦後75周年の今年に上演予定。r.goope.jp/unfruitful

 

 

 

NYジャピオン 最新号

Vol. 1273

トランプ大統領による新政権 第2章が遂に動き出す

米大統領選挙は今月5日投開票され、米東部時間6日午前5時30分過ぎに共和党候補のドナルド・トランプ前大統領(78)の勝利が確実となった。一方、民主党候補だったカマラ・ハリス副大統領は6日午後、首都ワシントンで演説し敗北を認めた。支持者らに向け、理想のために戦うことを「決してあきらめない」よう訴え、「この選挙結果は私たちが望んだものではない」としながらも、平和的な政権移譲が必要だと強調した。1期目とは全く異なると言われるトランプ政権2期目の行方はいかに。

Vol. 1272

リトルポルトガル味めぐり

ニュージャージー州ニューアークはポルトガルからの移民とその子孫が多く暮らしていることで有名だ。今週は日本人の舌にも合うポルトガルの味を探訪、併せてリトルポルトガルの成り立ちにも迫る。

Vol. 1271

冬に飲みたくなる、贈りたくなる ウイスキー魅力再発見

ウイスキーといえば、近年ジャパニーズウイスキーが世界で注目を集め、希少価値も上がっているようだ。ウイスキーには、シングルモルトや、ブレンデッド、グレーンなど種類によって味が異なり、銘柄ごとの個性を楽しめるのも魅力だ。そこで今回は、ニューヨークでウイスキーの魅力を再発見してみよう。