ハートに刺さるニュース解説

第107回 米新聞業界の変動

老舗大手が破産申請
明暗分けるデジタル化

米新聞業界の地殻変動が起きている。米新聞チェーン大手の「マクラッチー」が事実上破産した一方で、ニューヨーク・タイムズは、デジタル購読者の増加で、成長している。

マクラッチーは2月13日、米連邦破産法11条の適用(日本の民事再生法に相当)を申請して、事実上、破産した。適用申請が認められれば、再建手続きに入るが、国内大手第2位とされる同社は新聞売上が急低下し、巨額の債務を抱えていた。

マクラッチーの崩壊

マクラッチーは、創業163年の老舗新聞社だ。地方大手紙マイアミ・ヘラルド(フロリダ州)やカンザスシティー・スター(ミズーリ州)など、14州で30の地方紙を発行。2006年には、新聞大手のナイト・リッダーを45億ドル(約5000億円)という巨額で買収し、業界を驚かせた。しかしその後、インターネットの普及対応が遅れ、経営が急速に悪化した。

米メディアによると、マクラッチーが発行する30の日刊紙は今後も発行を続ける。しかし、同社は5000万ドルの資金を金融ソリューション大手エンチナ・ ビジネス・クレジット(本社イリノイ州)から借り入れる。また、破産手続きで7億ドルを超える負債が整理対象となり、60%が免除される見通しと伝えている。

同時に、マクラッチーの株式は上場廃止となった。同社の株価は2月13日現在、わずか75セント付近で取引されていた。2005年に付けられた最高値は、740ドルだった。今後、破産申請適用が認められた場合、会社の支配権はヘッジファンド、チャタム・アセット・マネジメント(本社ニュージャージー州)が握ることになる。

独立系調査機関ピュー・リサーチ・センターによると、2008年から18年の間に新聞業界の社員数は約50%減少した。08年のリーマンショックから米景気が回復しても、同業界は回復せず、広告収入と部数が共に大幅に減少した。

そこには、スマートフォンの普及や、SNSのフェイスブック、検索最大手のグーグルの台頭など、ニュースを無料で簡単に入手する消費者が増えたことが背景にある。

 

デジタル購読者増加で成長しているニューヨーク・タイムズ紙

 

砂漠状態からデジタルへ

経済誌フォーブスによると、「ニュース・デザート(ニュース砂漠)」と呼ばれ、地元紙が存在しない米国の郡は現在、225に達しているという。地元紙がある地域でも、その半数は週1回発行の週刊紙が1紙だけあるという、半ばニュース砂漠状態だ。

一方、ニューヨーク・タイムズは2月6日、2019年第4四半期決算(10—12月)を発表し、19年末のデジタル有料購読者数が前年末比26%増の342万9000人に達したと発表した。19年晩夏に始まったトランプ米大統領の弾劾手続きや今年11月に行われる米大統領選挙関連の記事が関心を集め、デジタル購読者が増えるきっかけとなった。

決算発表によると、同期の売上高は前年同期比1%増の5億836万ドル(約559億円)、純利益は同24%増の6821万ドルとなった。広告収入は11%減となったものの、売上高にしめる購読収入が5割増となったばかりでなく、5%増となり増収増益を支えた。

米新聞社の収入構造は、伝統的に広告収入が購読収入を上回ってきたため、景気に左右されやすかった。しかし、同社は、デジタル購読者の獲得に投資し、宅配の購読者約90万人の約4倍に当たるデジタル購読者を獲得。購読収入の割合を高めることで、経営基盤の安定に集中した。

有料人気のアプリを含めると、デジタル関連の有料購読数は計439万5000人。デジタルと宅配を合わせた購読者数の合計は525万1000人に達した。同社は、「25年までに購読者数1000万人」を目標に掲げており、達成は射程距離に入ってきた模様だ。同時に同社は、11年にデジタル版を有料化してから初となる購読料値上げを発表。月額料金を15ドルから17ドルへ引き上げる。

行政の「見張り番」としても、地方新聞が消えて行くのは、民主主義のためにも好ましくない。しかし、地方新聞を存続させる決定打がないのも事実だ。

 

 

津山恵子
ジャーナリスト。
「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOなどに単独インタビュー。
近書に「現代アメリカ政治とメ ディア」(東洋経済新報社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

 

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