ハートに刺さるニュース解説

第105回 民主党大会

いよいよ大統領選の年
激戦州で見る最前線

2020年大統領選挙の民主党大会事務局が開く、メディア説明会に参加するため、ウィスコンシン州ミルウォーキーに出掛けた。ニューヨーク市は多くの市民がリベラル派という背景もあり、選挙の影はまだないが、ウィスコンシン州という激戦州(スイングステート)で、いかに選挙が深刻に捉えられているのか圧倒されて帰ってきた。その戦いは、なんと3年前の2017年から始まっている。

州奪還を誓う民主党
感じるプレッシャー

中西部の真ん中にあるウィスコンシン州は、2016年の大統領選挙で、1984年から32年ぶりに共和党、つまりトランプ候補(当時)が勝利した。得票差は、わずか0・7%だった。

民主党はこの辛酸をなめた同州で、7月に大統領候補を決める党大会を開催する。党大会は、全米から集まる約3800人の代議員が、11月の本選挙でトランプ大統領と一騎打ちとなる民主党の候補を、4日間かけて決める大イベントだ。

メディア説明会は、会場となるアリーナを見せ、報道のためのスペースやロジ(ロジスティック=イベントの後方支援)を知らせるためのもので、それが7カ月も前に行われるのにも驚かされる。

無理もない。メディアからのスペース料などは大切な収入になるし、4日間にわたる党大会の報道で、大統領候補や民主党を全米に宣伝する最大の機会でもある。

そこで、民主党の激戦州ストラテジー担当者から、ウィスコンシン州を民主党の陣に奪回するための過程を聞いた。それは17年のトランプ大統領が就任した直後から始まっている。

まず、同州知事選挙が18年にあり、共和党の前知事を破ることが目標に掲げられた。それには、17〜18年にある保安官や郡・市の要職などの選挙で、地道に勝利していく積み重ねが必要だ。選挙区にスタッフを送り込み、共和党の席を民主党に切り替えていった結果、18年州知事選で民主党のトニー・エバーズ氏が当選した。

また今年4月に行われる州最高裁判事の選挙も、多数派を共和党から民主党に切り替えるため、力を入れている。

メディアをイベントに迎えたミルウォーキー市長のトム・バレット(民主党)は、スピーチで、「ここで民主党大会を開くことには、プレッシャーもある。でも、ここで開き、ウィスコンシン州の人々の姿を見てもらうことに意味がある」と語った。

共和党が16年に奪い、その後もトランプ大統領が何度も集会を開いている現地の複雑な事情を物語る。

 

7月に民主党大会が開かれるアリーナ

 

街で何が起きているか
深まる対立は続く

ミルウォーキーのイベントの後、80キロ南西にあるジェインズビルという小さな街を訪れた。そこの地方紙『ジェインズビル・ガゼット』の政治記者フランク・シュルツ氏に、激戦州での生活の様子を聞いた。

「家族や友人と政治や選挙の話はしませんね。保守なのかリベラルなのか、想像はできます。例えば私の母は、熱心なカトリック教徒なので、(リベラル派が主張する)人工中絶は絶対にダメですね」

バーで隣に座った、見知らぬ人とでさえ政治の話をするニューヨークとは、大きな違いだ。

16年3月に、トランプ候補(当時)がジェインズビルで集会を開いた際は、トランプ支持者と反トランプ市民が会場前で対立。トランプ支持者の男性が、反トランプの15歳女性に催涙ガスをかけて逃亡するという事件まで起きた。多くの人がビデオ撮影していたにもかかわらず、男性の行方は不明だという。

このような極端な対立も、保守かリベラルかはっきりしている州では考えられず、激戦州ならではの事件だ。

こうした背景を考えると、バレット市長が語った「プレッシャー」の意味がよく分かる。住民が保守とリベラルの真っ二つに分かれているだけでなく、全米からトランプ支持者も駆け付け、民主党大会の妨害をする可能性も考えられる。

一大イベントを仕切るだけでなく、代議員やデモ参加者の安全も重要視され、その準備も始まっている。7月の取材で何が起きるのか、この紙面でも伝えていきたい。

 

 

津山恵子
ジャーナリスト。
「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。
フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。
近書に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

 

 

 

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