ハートに刺さるニュース解説

第103回 SNS上の政治広告

SNS政治広告禁止
米国民に波紋広がる

フェイスブックとツイッターが、SNS上の政治広告を巡って、真っ向から対立している。偽情報や誤情報が混じった政治広告が、有権者の考えをミスリードすると、批判が増しているのが背景だ。

フェイスブックはこれまで、選挙の頃に増える政治広告は、「言論の自由」としてファクトチェック(事実確認)はしないとしてきた。これに対し、ツイッターは10月30日、全世界で全ての政治広告を禁止すると発表した。フェイスブックとは、逆の方針だ。

ツイッターのジャック・ドーシー最高経営責任者(CEO)は、「政治的メッセージは、人々に訴えて届くもので、買うものではない。(中略)広告がなくても、社会運動で大規模な訴えができる」としている。

問題は大統領選挙

SNS上の政治広告が問題となったのは2016年大統領選挙だ。選挙後の調査や議会証言で、特にフェイクの情報が入ったものは、トランプ候補(当時)に有利で、対立候補のヒラリー・クリントン元国務長官に不利なものが多かったことが判明している。

フェイスブックの政治広告問題は20年に控えた大統領選挙を前に、首都ワシントンでも急速に注目されている。

10月23日に開かれた米下院金融サービス委員会の公聴会で、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス議員(ニューヨーク選出、以下AOC)が、フェイスブックのCEO、マーク・ザッカーバーグ氏を詰問する場面があった。背景は、10月上旬、トランプ大統領の選挙陣営が流したミスリーディングな広告を削除するのを、フェイスブックが拒否したためだ。

AOC「20年選挙が間近なので、政治家がお金を払って、偽情報を流すことが可能なフェイスブックの政治広告について聞きます。私が黒人の多い地域をターゲットにして、間違った投開票日を政治広告で知らせることはできますか」

ザッカーバーグ「いえ、できません」

AOC「グリーン・ニュー・ディール(AOCが起草し、民主党が推進する環境政策)に共和党議員が賛成票を投じたと、共和党員をターゲットにして政治広告にすることができますか」

ザッカーバーグ「すぐには答えられません」

しかし、ツイッターが政治広告を禁止することで、フェイスブックへの包囲網も広がっている。米メディアは、グーグルも政治広告の方針を見直すと報じている。政治ニュース専門サイト「ポリティコ」は、フェイスブックが年齢や住所・政治嗜好などのデータに基づいて広告を見る人を狙い撃ちにする方法について、限定することを検討していると報じた。

16年大統領選挙でトランプ氏に敗れたクリントン氏は、ツイッターの発表の後、「米国と世界中の民主主義にとって正しい行動だ。フェイスブック、あなたはどうする?」とツイートした。これに対し、トランプ大統領や共和党は、ツイッターを批判する反対の反応をした。

広告支出は前回の2倍

コンサルティング会社ボレル・アソシエーツによると、来年の選挙に向けたデジタルの政治広告支出は約29億ドル(約3100億円)と、16年の2倍超に達する見通しだという。巨額の政治広告支出はこれまで、フェイスブック、ツイッター、グーグルが分け合ってきたが、20年はここからツイッターが消える。グーグルも規模を縮小する見通しだ。フェイスブックが残りを独り占めすれば、かなりの逆風があるだろう。

20年選挙の民主党候補であるバーニー・サンダース上院議員やエリザベス・ウォーレン上院議員も、フェイスブックを猛烈に批判している。ウォーレン氏は10月、フェイスブックの方針を試すために、わざとフェイクの政治広告を打った。

「速報、ザッカーバーグ氏とフェイスブックは、トランプ氏の再選を支持しました。というのは事実ではありません。ザッカーバーグ氏がしたことは、トランプ大統領がフェイスブックを思いのままに操って嘘をつき、有権者に嘘を送り出すのに大金を払っているということです」

民主主義の根幹である選挙を左右する可能性がある偽の情報を、人々は目にしてはならない。

 

公聴会でザッカーバーグを詰問したコルテス議員も、SNSを政治活動に活用している

 

【今週の用語解説】

SNSの政治広告

2016年大統領選挙に関して、ロシアが干渉したとされる、いわゆる「ロシア疑惑」を受け、SNSへの投稿や広告をめぐる議論が巻き起き、注目を集めた。

野党・民主党は、フェイクニュースなどの対策が不十分として、トランプ大統領が有権者を惑わせていると批判。これに対し、フェイスブックのザッカーバーグ氏は、有権者にとって政治家の主張を知る重要な手段とし、事実確認することは今後もしない方針だという。 

1年後に迫る大統領選挙に向けて、SNSの政治広告をめぐる議論は今後もまだ続きそうだ。

 


津山恵子
ジャーナリスト。
「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOなどに単独インタビュー。
近書に「現代アメリカ政治とメ ディア」(東洋経済新報社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

 

 

 

関連記事

NYジャピオン 最新号

Vol. 1126

NYCマラソンが復活! おすすめランニングスポット

2年ぶりに開催されるNYCマラソン。今大会の概要やレースの魅力、ニューヨーク在住ランナーたちが紹介してくれるおすすめランニングスポットをチェックしてみよう。

 

Vol. 1125

出張者にも! 一時帰国者にも!  NYのお土産・手土産は何がおすすめ?

コロナ禍でも一時帰国をする在米日本人は多く、また10月1日からワクチン接種証明書による日本帰国後の隔離期間が短縮されたこともあり、出張者も徐々に戻って来る見込みだ。そんな帰国の際、知っておくと便利なニューヨークならではのお土産、手土産についてチェックしよう!

Vol. 1124

ロシア人街でフクースナ(おいし〜い)!

ブルックリン区最南端のブライトンビーチは、ロシアと黒海沿岸地域からの移民が多く暮らすエリア。地下鉄高架下や周辺には、郷土史色豊かな食べ物を売る店やレストランが軒を並べている。

Vol. 1123

ニューノーマルのバーバー事情

いよいよ経済の復興期に突入したニューヨーク。対面ビジネスも次々に再開され、男性の身だしなみが気になり始めた。新しいノーマルに向けて活況を呈する理容の世界をのぞいてみよう。