ダイヤモンド商:石田多叡子 X 不動産エージェント:山崎里香

テーマ:喜春さんの思い出

共に「ニューヨーク京都倶楽部」に所属する、石田多叡子さんと山崎里香さんが、故・中村喜春(きはる)さんについて語った


——今回の対談のテーマは、中村喜春さんとのことですが、2人の共通の友人ですか?

山崎 私は1999年にニューヨークに来ましたが、2004年に亡くなった喜春さんと直接の面識はありません。

石田 私は彼女の生前、よくしていただきました。外ではいつでも日本髪を結って、着物をきちっと着ている人だったんですよ。

山崎 ニューヨークで一人で着物を着るって、すごく勇気が要りますよね! 日本人のプライドだったのかな。

私が喜春さんを知ったきっかけは、クイーンズ区ジャクソンハイツの、彼女の自宅の売却をお手伝いしたことです。そこも総和風で、すごかったですよ。広いリビングは全て畳張りで、障子やふすまもあって!

その家に着物や新品の扇子などが、大量に残されていたんです。どう処分しようかと思って、多叡子さんなら着物についてもご存知かと思って相談したら、「喜春さんならよく知ってますよ」と。驚きました。

石田 私たちは元々、東日本大震災の追悼記念式典で出会って、「京都倶楽部」でご一緒しているんですけど、まさか喜春さんと共通のご縁ができるとは。

——石田さんは喜春さんとはどう出会ったのですか?

石田 喜春さんのことは、当地の日本人みんなが知っていました。私がニューヨークに来たばかりのころ、古い着物や帯を加工販売していた男性を手伝っていたんですけど、そこによく喜春さんが来ていました。

当時のニューヨークには日本人もそんなにいなかったし、狭いコミュニティーだったんですよ。行く飲み屋もみんな同じで、そこで情報交換をしていた。誰もが横並びで、「ムラ社会」ができなかったですね。

山崎 良い時代ですねえ。そう思うと、今のニューヨークの日系コミュニティーに、そういう「誰もが知っている人」は、あまりいないかもしれませんね。

——喜春さんとは、どんな人だったのでしょう?

石田 不思議な雰囲気で、でもチャキチャキしている人。頭が良い人だったのだと思います。ニューヨークにいらしたのは1958年ですね。芸者さんで、外国人を接客するために英語を学び、外交官と結婚された。そういう経験を経て、来米されたんです。

日本文化にとても精通している人だったので、「蝶々夫人」を上演するメトロポリタンオペラへ着付けを教えに行ったり、マイアミの大学で、三味線や長唄などを教えたりもしていたそうです。私の主人も、喜春さんから三味線と長唄を、ほぼ強制で習わされていました(笑)。

山崎 強制なんですね(笑)。私は喜春さんが書かれた本を通して、彼女を知りました。そこに書いてあったのですが、喜春さんの著書を読んで感銘を受けた日本の若い子やその親が、喜春さんに会いたいと連絡してきて、その若い子たちを実際にご自宅に住まわせていたそうです。

石田 そうそう。「家に住んでる子が、彼氏ができて妊娠したから、出て行くって言うの。大丈夫かしら」と、喜春さんが心配していたこともありましたよ。

山崎 他には、「今の若い子の日本語は汚い」とも書いてらっしゃる。

石田 私はその話を「(汚くて)すいません」って言いながら聞いていたの(笑)。多芸を極める芸者さんとして、日本文化に誇りを持っていたのでしょうね。

ご自身が受け入れられたからか、アメリカのことは大好きだったみたいですよ。

山崎 ご自宅を担当することになった時は、そんなすごい人だったとは、思わなかったな。

石田 私は一時帰国するたびに、喜春さんから買い物を頼まれたりしていましたが、プライベートな話はそこまで深く知っているわけではなかったので、逆に今、こうして著書を読んで、色々知りました。人の縁ってなんだか不思議ですね。

思い出のたくさん詰まった家でした—山崎

喜春さんのことは、みんなが知っていた —石田

 

 

 

 

写真左:石田多叡子

1980年、夫の大手ダイヤモンド会社入社に伴い来米。設立したコーポレートアイデンティティ(CI)会社で、10年間開発プロジェクトに携わった後、92年に夫が経営するダイヤモンドの卸売業「EXRoyal」の副社長に就任。ボランティアとして、ニューヨークで開催される多くの日系イベントの企画・運営に携わる。

 

写真右:山崎里香

古本不動産所属の不動産エージェント。1999年に来米。2004年にFashion Institute of Technologyを卒業。16年にニューヨーク州ブローカーライセンスを取得。約2年で100件以上の賃貸契約の経験を持ち、現在、売買物件にも力を入れている。
rika@furumoto.comfurumoto.com

 

関連記事

NYジャピオン 最新号

Vol. 1194

2023年見るべき韓国ドラ映画一挙介!

新たなファンを次々と巻き込み巨大なブームを創り出す韓国のエンタメ業界。中でも映画やドラマは、名作が多く揃い、大手動画配信サービスを席巻している。2020年アカデミー賞作品賞を受賞した「パラサイト 半地下の家族」も、韓国を代表するミステリーで一種の社会現象まで巻き起こした。そして、コロナ禍で連続ドラマにハマる人が再び増え、緩和されてからもその勢いは止まらず、巷では第4韓流ブームとも言われている。そこで今回は2023年に見るべき韓国ドラマ&映画を一挙に紹介する。

Vol. 1193

ニューヨークで見つける 新生活にも役立つ こだわりの雑貨

新生活の始まる春は何かと身の回りの雑貨を新調するのにもいい時期。最近は日本からの出張者や旅行者もめっきり増え、最適な雑貨やニューヨークならではのファッションを知っておくことで会話も広がりそう!

Vol. 1192

徹底研究!サマーキャンプ2023

子供を抱える家庭にとっては、毎年この時期がサマーキャンプを決める大事なタイミング。日本への一時帰国の計画のあるなし、市内の日帰りキャンプにするか? 山間部のお泊まりキャンプにするか? お財布との相談も悩ましい。約2カ月に及ぶアメリカの長い夏休みを子供達がいかに有効に過ごすか? キャンプ選びのヒントになる情報を集めてみた。

Vol. 1191

春はもうすぐ 今年のお花見、どこ行く?

約3万4000本以上の観賞用桜が植えられ、開花時期によって街の風景が一変するのがニューヨーク。短い春を華麗に彩る桜と、おすすめのお花見スポットを紹介する。