グローバル時代の子育て

その54 日本と世界の 算数教育の違い

教育に長年関わっていると日本人の子どもの算数力の高さに驚かされます。恐らくかけ算九九やそろばんが日本文化に浸透しているからでしょう。海外で育つ子どもにとって算数は大切な教科です。英語力は劣っていても「算数ができる」という自信があれば、異国での学校適応はスムーズに進みます。

四則計算(足し算、引き算、掛け算、割り算)がスラスラできれば、世界中のどの小学校に通っても授業についていくことができます。日本から外国に移り住んで間もない、英語が話せない子どもでも、算数の授業には適応することができます。英語力が遅れがちなバイリンガルにとって算数は自信の支えなのです。

その一方で、小学校高学年から中学生にかけて、算数でつまずき始める子どもが増えてくることにも目を向けなくてはなりません。計算力でカバーできるのは小学校まで。代数や幾何を学び始める中学以降には、問題を正確に読み取るクリティカルシンキング(批判的思考力)が大変重要になります。

算数用語を
正しく理解する

子どもの算数教育でかかせないのが、算数用語を正しく理解していることです。例えば、キンダーガーテンでは「before, after, next to, over, under, between, long, short, heavy, light, greater, less, equal, same, different, more, fewer」などの単語を正確に理解している必要があります。

日本で暮らし、日本の幼稚園に通っていればこのような算数用語は自然と身に付くでしょう。しかし海外の学校に通っている子どもの場合、両親が言葉の意味を説明してあげなければ、算数用語が定着しないのです。現地校に通わせておけば算数は身に付くだろうと考えるのは危険です。あいまいな言語理解は、あいまいな思考につながり、将来の文章題でのつまずきの原因となります。

 

 

算数教育の
重点の違いを知る

日本と外国では算数に対する考え方が大きく異なります。日本では「計算力の育成」に重点が置かれていますが、たとえばアメリカの学校教育では「算数的に考える力の育成」が重視されます。

日常生活で出合う事象を、いかに算数的に捉えるか、算数で身に付けた技能を問題解決にどう活用するかなど、算数的思考力の育成が強調されます。アメリカの算数で文章題が多いのも、算数的に考える力の育成に有効だからです。文章題は日常生活で算数を使う場面を文章化したものです。文章題を通して、問題を正しく読み取る力や、算数的に問題解決していく力を、養うことができます。

計算力は家庭で育てる

海外では「計算力」の育成を日本ほど重視しません。従って、算数を学校任せにしていると、計算力の弱い子どもに育ってしまいます。

家庭でも計算問題に取り組む習慣を付けましょう。まずは四則計算が(できれば暗算で)スラスラできるようにすることが目標です。

日本式の計算力と欧米式の思考力。両者をバランス良く身に付けることができれば、算数を学ぶことの楽しさや意義を実感できる、学習意欲の高い子どもに育ちます。

 

船津徹 (ふなつ・とおる)

TLC for Kids代表 教育コンサルタント

1990年明治大学経営学部卒業。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。
しちだ式教材制作に従事。2001年ハワイ州ホノルルにてグローバル教育を行う学習塾
TLC for Kidsを開設。
2015年に
TLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校開設。2017年上海校開設。
アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上のバイリンガルの子どもの教育に携わる。
イエール大学、ペンシルバニア大学など米国のトップ大学への合格者を多数輩出。
著書に「すべての子どもは天才になれる、親(あなた)の行動で。」(ダイヤモンド社)、「世界で活躍する子の〈英語力〉の育て方」(大和書房)。

 

 

 

 

 

 

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