書道家:金子静光 X 書道家:光華

テーマ:書を教える・教わる

「静光書道」主宰の金子静光さんと、その弟子である光華さんが、「教えること」をテーマに語り合った。


——光華さんが静光先生に弟子入りした経緯は?

光華 ニューヨークには大学で国際ビジネスを勉強するために来ましたが、小学生の頃から書道をやっていて、書道家になりたいという夢があったので、ネットで調べて先生に弟子入りしました。

静光 アメリカの大学で学んで、この国に目をやり、一方で日本の文化も極めていくというのは、おもしろい発想だと思います。


——日本から来て書道をやりたい人は少ないのでは?

静光 お金にはならないし、よっぽど好きでないと書道家としてやっていこうなんて思わないでしょう。でもこの人は意志が固くてファイトがあります。すごく努力していて、もう5段なので立派な書道家です。

光華 いつも教室に来て先生の元で書いていますが、続けないと段が取れないので、時間が掛かります。

静光 私も啓発されて、この人が来る時には書こうという気持ちが出てくるんです。ただ教えるだけでなく、生徒を見習って一緒に書くことをやっています。


——先生は97歳になられるそうですが、光華さんから見てどんな人ですか?

光華 「かな」が専門で、自分のスタイルを持っていらっしゃる。書道家というよりアーティストです。

静光 この歳まで生きた人間が書いている字を若い人は真似られないし、どう書けばいいのか聞かれても、教えようがなくて。年を取らないと分からない。

光華 あと70年待たないといけないんですね(笑)。

静光 でもそういうことです。指導に法則はないですが、私は日本で長く小学校の教員をやっていたので、どう教えたらいいかピンと来るんです。

   でも教えた経験がない書道家は、「私の字を真似なさい」とお手本だけ書く。それが「指導」の教室もあります。でも今はそれでは通用しません。いろいろな立場や状況の人が来るので、教え方も一人一人違います。

光華 私は先生から任せられて、2年前からアメリカ人の自閉症の子を教えています。その生徒さんは書道を全く知らなかったので、こんなに長く続くとは思えなかったのですが、今は指導の時間をすごく楽しみにしてくれています。


——教える側になってみて、いかがですか?

光華 勉強している書道と教える書道は全然違って、考えさせられます。例えば、私が先生から注意されたことを自分の生徒がやっていると、つい目に止まる。「ここは違うよ」と、私が先生から教わったことを今度は私が生徒に教えていて、おもしろいなと思います。

——光華さんは8月に、全米16都市で書道をしながら横断するそうですが。

光華 はい。全米に書道を広めたいと思って、この企画を立てました。

静光 行動力があるので、きっと成功するでしょう。何でもやってのけるから、この人は。日本人としてオーソドックスなことをきちんと身に付けているので、ここまで上がってきて、みんなに認められています。

——光華さんが先生から学んだことは何ですか?

光華 日々常に新しいことを考えては挑戦されているところですね。

静光 「新しいアイデアの実現が生活の喜びである」という言葉が好きなんです。例えばお茶碗を置く位置を変えるなど、ささいなことを常に考えています。

——光華さんの今後の目標は何ですか?

光華 ここでのいろいろな経験を活かして、世界中に書道の美しさを広められる書道家になりたいです。でも、まだ自分のスタイルが見つからなくて。

静光 先のことばかり考えていてもしょうがないので、その日その瞬間を充実させていくことが一番大事。書道家になりたいからといって、書いてばかりいてもだめで、大学教育を身に付けることは大事なので、しっかり勉強してください。

光華 頑張ります!

 

 

写真左:金子静光

福岡県出身。音大教育学部卒。日本の小・中学校で教職歴30年、書道指導歴30年。1981年来米。2008年にニューヨーク領事館で生徒作品展を開催。日本での書道展に4回出品。かなは植西翠子に指事、百人一首を研究。「静光書道教室」主宰。
http://seikoushodou.com

写真右:光華

東京都出身。7歳の頃から書道を学ぶ。2016年来米。バルーク大学で国際ビジネスを専攻する傍ら、金子静光に弟子入り。18年から書道家としての活動を始め、東京都美術館での作品展示やチェルシーでのグループ展に参加。今年ブルックリンで初の個展を開催。kokacalligraphy.com

 

 

関連記事

NYジャピオン 最新号

Vol. 1240

今年のセントパトリックデーはイル文化を探索しよう

3月17日(土)のセントパトリックデー(Saint Patrick’s Day。以下:聖パトリックデー)が近づくとニューヨークの街中が緑色の装飾で活気づく。一足先に春の芽吹きを感じさせるこの記念日は、アイルランドの血を引く人にとっては「盆暮れ」と同じくらい大事。大人も子供も大はしゃぎでパレード見物やアイリッシュパブに出かける。聖パトリックデーとアイルランド魂の真髄を紹介する。