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15|Vol. 892|Friday, November 25, 2016 BUSINESS阪本が選ぶ読めば分かる この一冊生命の劇場 ユクスキュル、入江ほか訳107共 感 マ ー ケ ティン グ問い合わせもらい しょう。でもこれはいかに なかったもの記録 ももったいない。だってその 商品があったら確実に売れ   リアルな店舗でも、ネッ ていたわけですから。「買う トショップでも、「こういう よ」とお客さんのほうから 商品はありますか」とお客 言ってきてくれているので〝共感〞をキーワードに独自のマーケティング理論を 展開するブランディングコンサルタント・阪本啓一の「マーケティング力アップ講座」。さんから問い合わせをいた すから。 だくことがあります。扱っ   「問い合わせがあったけ ている商品であれば売上に れど、店になかったもの」リ なり、販売実績として記録 ストを記録する仕組みを に残ります。それはいいの 作りましょう。電話であれ、 です。問題は、「はい、申し訳 メールであれ、店頭であれ、 ございません、当店では扱 すべて記録しておく。そし第 回 ボール球を拾え商売における ボール球とは何かん。  では、このケースの事実っておりません」の場合で て仕入れてみる。  お客さんとのやりとりの 中で、「ボール球」というも のがあります。例を挙げま す。あなたは自慢のラーメ ンを一人でも多くの人に楽 しんでもらいたくて、ラー メン店を開店しました。と ころが、お客さんが好んで 注文するのはギョーザばか り。この場合のラーメンは ストライク、ギョーザがボ ールです。は何か。お客さんが好んで 注文するギョーザに人気が ある、ということです。私 は、「2ギョーザが売れてい るんだから、ギョーザ専門 店にチェンジする」をおす すめします。  ラーメン店に話を戻す と、「うちのラーメンはおい しいから、たくさんのお客 さんに支持されるはずであ る」というのは事実ではな く、あくまでも仮説です。希 望的仮説と言ってもよいで しょう。  多くの場合、記録に残り が、次の商品戦略のヒント ません。気の利いた販売ス になるのです。ボール球を タッフであればメモにして、 コツコツ拾う。驚くほど売 次の仕入れ会議で報告す 上が上がるかもしれません るかもしれませんが、そう よ。 いうことはほとんどないで  こういうとき、あなたは どうしますか? 1初志貫 徹、ひたすらおいしいラー メン作りに精進する。2ギ  ゾーンA「私は知ってい ることを知っている」。ョーザが売れているんだか ら、ギョーザ専門店にチェ ンジする。  ゾーンB「私は知らない ことのあることを知ってい る」。  つまり、「私はギョーザが 売れることを知っている」は ゾーンAに当たります。商 売に必要なことは、当初立  たいていの人は、真面目 なので、1の初志貫徹をす るはずです。しかし、「うち のラーメンはおいしい」と いうのは、大変申し訳ない のですが、仮説に過ぎませ  そして、その大きさは「A B C」のはずです。 てた戦略はあくまで仮説に「知る」の3ゾーン そこに商売の可能性  前記の「知らないゾーン」 でいうと、本人はゾーンA のつもりなのかもしれない けれど、実はゾーンCなの です。そして、いざ開店した らギョーザが売れた。とて も売れた。これが事実とな ります。売上として現金が 入ってきているのですから。  「知る」ことには、次の三 つのゾーンがあります。  ゾーンC「私は何を知ら ないのか知らない」。  そう、世界には「知らな 過ぎず、こだわってはいけ いことすら知らない」こと ないということ。虚心坦懐 のほうが断然多い。だから に事実と向き合う謙虚な 面白いのです。だからこそ 姿勢が大事なのです。商売は可能性に満ちているのです。 す。   このようなボール球こそ  本書はヤーコブ・フォン・ かというと、引用した言葉 ユクスキュル(1864-1 の通り。実例、つまり、事実 944)没後、遺稿を整理し に合わせて戦略構築する必 て出版されたものです。その 要がある。 意味で、環世界を提唱した   ただし、人間相手に人間 稀有な生物学者の知の到 が営むのが商売。分かるこ 達点に触れる感動を味わえ とより、分からないことの ます。 方が多い。いったん立てた戦  大学理事、宗教哲学者、 略も、あくまで仮説に過ぎ 画家、動物学者、生物学者 ず、謙虚に事実へ向き合っ の5人が環世界論と生物 て修正しつつ前進する姿勢 機械論について議論する、 が大事。高度な知的議論が という架空の設定です。こ 生み出す興奮も、本書の読 れが商売にどうつながるの みどころです。「規則に合わせて実例 を探し出すのではなく、 実例に合わせて規則を 探し出すべきである」(本文から引用)> >講談社学術文庫今週の教訓記録しましょう阪本啓一■ブランディングコンサルタント。大阪大学 人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し 渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。 06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役社 長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営 の実現に取り組む。『ブランド・ジーン~繁盛をもたら す遺伝子(』日経BP社)などの著書・訳書、講演活動 も多数。www.kei-sakamoto.jp 電子メディア開店!www.orange-media.jp


































































































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