Page 16 - NY Japion
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第6回 サラリーキャップンバウワーなどの世界的なスター選手を集め、北米サッカーリーグでだんとつの人気を誇ったニューヨーク・ 営のビジネスパートナーで年俸上限でリーグ守る 各球団の戦力均衡狙いコスモスでした(現在のチ ームは2010年に、名称 使用権を獲得し設立した 別経営の球団)。このときに はサラリーキャップがな く、資金力があったコスモ スだけが人気選手を買い 漁り、リーグに所属する他 のチームはついていくこと ができず、次々に倒産して しまいました。結果、チーム が不足し北米リーグ自体 が1984年に倒産。リー グが消失すると、どんなス ーパースター軍団でも試合 をする場がなくなり、一緒 に倒産をしたのです。ある。選手だけお金を欲し いだけもらってリーグやチ ームが倒産するようではい けないし、リーグやチーム が儲かった際には選手にも それを還元するべきだ」と 言わます。ただし、選手の 現役期間は一般的な仕事に 比べ非常に短いですが、リ ーグの拡張は長期的なもの ですから、選手は現役の間 に稼げるだけ稼ぎたいとい う意向があるのも事実で す。 「サラリーキャップ」とは 文字通り、給与にキャップ (上限)が設けられているこ とで、アメリカのプロスポ ーツ界では大体のリーグに高額報酬を得るのは当然 のことです。何故プロスポ ーツでは、このような制度 が存在するのでしょうか。各球団の 差をなくすため導入される制度です。 このサラリーキャップ制 度は、スポーツビジネスの 制度の中で、一般社会の常 識と大きく異なるユニーク なものの一つです。給与の上 限とは、一般的な生活では あまり聞かないですし、そ んな制度があったら反発は 必至です。通常のビジネス であれば、個人の給与は市 場価値で決まるもので、優 秀で引く手あまたであれば プロスポーツを観戦する とき、毎回、ものすごく強い チームと、ものすごく弱い チームとが試合をすると し た ら ど う で しょ う か 。 ニューヨークにあるチー ムと、人口が少なく、企業 の数も少ない地方のチーム「今日は勝てるかもしれな を例にとって考えてみまし い」「今年は自分の応援す ょう。このように地域によ るチームが優勝するかもし る差が存在するとき、リー れない」と期待を込めて観 グとして特に何もしなけれ 続けるのは、よほど熱心な ば、当然ニューヨークの方 ファンや番狂わせが好きな が人口が多く、ファンも多 人でない限り、難しいと思 いのでチケットを多く販売 います。プロスポーツにおい できます。また企業の数が ESPNの調査によれ ばMLSの2016年度 の平均年俸は約 ・6万ド ルといわれ、前年度からは 8・5%上昇しています。こて、「どっちが勝つか分から多くスポンサー企業も探 しやすいため、チームの力 は、チームが本拠地とする 都市の経済力の差の影響 をもろに受けてしまうこと になります。収入の多いニ ューヨークのチームの方が より大枚をはたいて優秀な 選手を多く抱えることがで き、大都市のチームにお金 も選手も人気も集中して しまいます。 この例からも分かるようにプロスポーツは試合をしてなんぼの世界ですから、 の値を欧州リーグと比較 チームにリーグは必要であ すると低いという声もあり り、リーグにチームは必要 ますが、かの地とは経営規 な存在なわけです。この関 模も違います。さらにサラ 係を維持するためには都 リーキャップ制度がなく、 市の経済力の差や、オーナ 億万長者たちが獲得した ー企業の差を極力減らす い選手に好きなだけ給料 方策が必要であり、各チー を払うといった違いもあり ムに所属する全選手の年 ます。 俸にいくらまで使ってよい スポーツビジネス発祥の というキャップや、選手一人 地といわれるアメリカで 当たりいくらまで給料を は、サラリーキャップはスポ 払ってよいというキャップ ーツに投資する、また将来 が必要となるのです。私自 の発展を期待できるビジネ 身が現在スカウト補佐を スとして成り立たせていく 務めるメジャーリーグサッ ための当然の工夫なので カー(MLS)では、「皆同 す。ない」という要素は非常に 大事で、その状態を維持す ることはプロスポーツリー グの仕事の一つです。スポー ツビジネスの専門用語でこ のことを「戦力均衡」とも 言うのですが、サラリーキ ャップは、まさしくこの戦力 均衡化の工夫なのです。 選手の年俸をコストと 考えた場合(投資と考える 場合も多いですが)、売上に 対してコストがそれを上回 ることは普通ないと思いま す。MLSでもチームの事 業や売上が拡大すること でサラリーキャップの額も 引き上げられてきました。 MLSではビジネス的見 地から、「選手もリーグ経 その顕著な失敗例が1 970〜 年代に、「サッ カーの王様」ペレや、「皇帝」 と言われたフランツ・ベッケじ車に乗って競争させない と本当に腕の良いクラブ経 営者やGMは分からない。 初めからスーパーカーと、 おんぼろの車を競争させて も面白くはない」と言われ ています。リーグと選手は パートナー© Stokkete / Shutterstock.comリーグ、チームを存続させるために作られたのがサラリーキャッ プ制度。スポーツビジネス先進国のアメリカならではの制度80Friday, November 11, 2016|Vol. 890|16 BUSINESS中村武彦の プロスポーツから見る世界でも一歩進んだスポーツビジネスが展開さ れるアメリカ。多くのプロスポーツの本部がある ニューヨークでは日々、新たな考えやビジネスモデ ルが生まれている。最先端のプロスポーツビジネ スの現場に携わっている中村武彦が解説する。中村武彦マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマ ネジメント修士取得、2004年、MLS国際部 入社。08年アジア市場総責任者就任、パン パシフィック選手権設立。09年FCバルセロ ナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学 院国際スポーツ法修了。FIFAマッチエージェ ント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを 経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。31

