Page 4 - NY Japion
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地道な基礎研究の先に夢見る世界中に、「遺伝子」と呼ばれる 特殊なDNAの配列が、2 万3000種類程度存在 する。核の中にある特殊な 装 置「 R N A ポ リ メ ラ ー ゼ」が遺伝子の配列を読み 取り(「転写」と呼ばれる)、 よく似た化学物質である RNAを合成。RNAが核のロバート・レーダー教授 の研究室にポジションを得 て、研究にいそしんでいる。ロックフェラー大学 生化学・分子生物学研究所勤務 伊藤慶一さん  「生物学の研究というの 再生医療の分野に興味を 元になる細胞を作る研究は、泥くさい作業なんです。 持つようになる。 を行っていた。そこから、そ目標に向かって、地道な努   大学院生のころ、人工多 もそもヒトや動物はなぜ、力をずっと続けないといけ 能性幹細胞(iPS細胞) たった一つの細胞である受ない。その精神を僕はサッ の研究で知られる、京都大 精卵から、何百にもわたる の外に運ばれ、タンパク質へ  遺伝子の制御の仕組み が破綻すると、奇形で生ま れてきたり、大人になって からガンや生活習慣病に なったりする。そのため、伊 藤さんは、「転写」そしてカーから学びました」と語 るのは、ロックフェラー大学 の生化学・分子生物学の研 究所に勤務する伊藤慶一さ ん( )だ。学の山中伸弥教授が、ノー 種類の細胞ができていくの と変換される。この一連の ベル生理学・医学賞を受 かという、発生学の分野の 仕組みは「遺伝子発現」と 賞。再生医学に更なる期待 研究に興味が広がってい 呼ばれる。「制御」といった基礎的な研 究こそが、病気の解明に一 番大事だと考えている。1回でだめなら、100回挑戦研究者に認められ、その人 達し、ミンチにするところ の紹介で、現在のデニス・ から手掛け、精製を繰り返  「レーザーがきれいなん ですよ」と、自ら組み立て た実験装置を見せてくれ たのは、アルバート・アイン シュタイン医科大学で、タン パク質の構造解析に取り 組む石上泉さん( )。自作 のタンパク質溶液にレーザ ーを照射し、光の変化を解 析するのだという。質の形と機能を解き明か す の が 、石 上 さ ん の 研 究 だ。先天性疾患や病気の治 療法開発に役立つ可能性 があるが、日々の実験がそ れに直結するわけではな い。実験は忍耐と体力勝 負。データをうまく測定で きず徹夜することもある が、「分からないことがある からこそ楽しい」と笑う。ていて、ものすごくきれい だったんです。タンパク質の 話も面白くて、楽しそうだ な」と、興味を引かれた。立されていたが、国外での 成功例はまだなかった。石 上さんは1年後に成功。日 本以外でこの結晶を作れる のは、今も同教授の研究室 だけだという。構造解析という手法を改 良すること。スタンフォー ド大学と協力して取り組 んでおり、実現すれば応用 範囲が格段に広がる画期 的成果となる。が高まっている時期だった。 く。 ヒトの臓器の中で、最も再  生機能が高いのが肝臓。た 夢は病気の解明とえ %を取り除いても、自然と元に戻るのだとい   動物細胞の核の中には、 う。そこで大学院生時代 DNAが連なってできた染  「大学院を終える頃か ら、『転写』という現象がな ぜ、どのようにして、正確に息抜きはサッカー  小中高大はずっとサッカー部に所属。社会人チームでも活動していた。大学3年生のときに靭帯(じんたい)を損傷した経験から、 は、iPS細胞から肝臓の 色体がある。この染色体の  研究漬けの日々だが、息 抜きはやはりサッカー。週 末は日本人アマチュアサッ カーチーム「FCジャパン」 の練習や試合に参加して 汗を流している。アルバート・アインシュタイン医科大学勤務  石上泉さんL・ルソー教授の研究室にして作る。丸4日かかる「タ  人間の体には何万種類と い う タ ン パ ク 質 が あ り 、  互いに関係し合って生命活 米国初の快挙を達成   研究に没頭して就職活 という直感がありました。動を支えている。顕微鏡でも見えない小さなタンパク   進路を決めたのは、大学動もしなかったが、データ 何でもそうですが、1回や 測定を手伝ったアメリカの ってあかんかったら、10 0回やればいいって思うん入ることが決まった。  同教授は、タンパク質構 3年生のとき。大型レーザ 造解析の大御所。最初に与 ー施設で、実験を見学した えられた課題は、あるタン のがきっかけだ。「いろいろ パク質の結晶を作ることだ な色のレーザーが飛び交っ った。その方法は日本で確フな作業」だ。  当面の目標は、X線結晶  「やり始めると、周りが見えなくなるタイプ。(疑問が解けるまで)意地になっ   「みんなから無理だと言 て 、と こ と ん や っ ち ゃ う 」 わ れ た け れ ど 、絶 対 で き る  婚約者もニューヨーク市 内の別の研究所に勤務す る 日 本 人 研 究 者 。実 験 で 使 うレーザーの話で意気投 合し、付き合い始めた。忙 しい時期は寝るためだけに 帰宅する日が続く。疲れを 癒やしてくれるのがペット『制御』されるのかということに強く興味を持つようになりました。これは、体がきちんと働くための、もっとも根本的かつ重要な仕組みなのですが、実はまだ分かっていないことだらけ。毎日ワクワクしています!」 える結果を出したいです。 と目を輝かせる伊藤さん。 その後は、アメリカでもヨ  大学院卒業後は、RNA ーロッパでも、自分の興味の ポリメラーゼの発見者であ ある研究ができる環境にい り、転写の研究分野の権威 られればいいですね」と涼 である、ロックフェラー大学 しい顔で答えた。です!」  現在扱っているのは、呼 の猫。「いっしょに寝てくれ  今後の展望を聞くと「5 年以内に、意味があると思吸によって取り入れた酸素 るんですよ」と相好を崩す。 をエネルギーに変えるため   月1回の「女子会」も、欠 に重要な、チトクロムC酸 かせない楽しみの一つ。 化酵素というタンパク質。  「研究のことはしばし忘 食肉処理場から人間の頭 れて、普通に女子トークで ほどもある牛の心臓を調 盛り上がっています!」女子トークで気分転換兵庫県出身。兵庫県立大学理 学部卒業後、同大学大学院修 士課程および生命理学研究科 博士課程を修了。理学博士。 2012年4月からアルバート・アイ ンシュタイン医科大学に勤務。「科学をもっと身近に感じてほし い」と、一般向けの科学セミナー の企画運営に携わっている。レーザー光を利用するタンパク質 構造解析装置を調整する石上さ ん。タンパク質の準備から装置の 配置、データ測定と記録、解析ま で全て1人で行う東京都出身。幼少期をアメリカ で過ごす。東京大学理科2類農 学部卒、同大大学院新領域創 成科学研究科で理学博士号を 取得。東京大学医科学研究所 にポスドクとして1年半所属した 後、2014年10月からロックフェ ラー大学の生化学・分子生物学 研究所に所属。顕微鏡で細胞を観察する伊藤さ ん。上司のロバート・レーダー教 授の研究室では、他にも多くの日 本人研究者が所属し、日々研究 に励んでいる33Friday, May 27, 2016 Vol. 866 04 ||COVER STORY 3170


































































































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