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15|Vol. 944|Friday, December 1, 2017 BUSINESS阪本が選ぶ読めば分かる この一冊僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。 出雲充「それは、『いま世界で、 自分ほど、ミドリムシに ついて真剣に考えてい る人間はいないはず だ』という思いだった。」(本文から引用)156共 感 マ ー ケ ティン グ由に使ってください、SN Sなどネットはもちろん海 外への通話も無料です」と 新しいサービスを追加して います。が、感情的には共感したく ない」心理をお客さまに生 みます。〝共感〞をキーワードに独自のマーケティング理論を 展開するブランディングコンサルタント・阪本啓一の 古典『「大学」に「至善に とどまる」というフレーズ があります。意味は、「ここ まではやるが、ここから先 はやらない」と明確に線引 きすること。つまり、「越え てはいけない一線」を認識 していることがブランドを 成立させる重要要因なの です。「うちがお客さまか ら支持されている理由」を 定期的に振り返りましょ う。そして、至善にとどま りましょう。 *「僕はミドリムシで世界 を救うことに決めました。」「マーケティング力アップ講座」。第 回 至善にとどまる正しいが共感できない 人間の世界には「サイエ ンティフィカリー・コレクト (科学的に正しい)」けれ ど、「エモーショナリーアグ リーメント(感情的な共 感)」が得られないこととい「痩せることそのものが目 的化」してしまう心理に通 のオフィスに間借りしてい 分はBのチェーンでした。 じる弊害が生まれます。そ たため、一緒と見なされ、取 AとBは経営は別ですが う、コスト削減が自己目的 引先が手のひらを返した 「出張族の味方」というコン 化してしまうのです。経営 ように去っていきました。 セプトが似ていて、まるで 的には数値が改善されるの それから厳しい逆風が 双子のようなイメージでし で経営者は担当者を褒め 吹いてようやく事業が軌 た。全国展開しているため、 たり自分のアタマをナデナうのがあります。 ユーグレナ社がミドリム道に乗り始めるまで3年 AでもBでも特にこだわらデしたりするのかもしれま せんが、「科学的には正しい(出雲充、ダイヤモンド社)シを普及させようとした 際に当たった壁がまさにそ れで、いくらミドリムシが 体に良いと科学データを示 して証明しても、初めて耳 にする人は「なにそれイモ ムシなんでしょう?」と拒 絶してしまう。また、ライブ ドアから出資を受けていた というだけで取引先から 拒絶されました。実際は独 立した経営をしていたにも 関わらず。かかりました。出雲社長は ず訪問先に近い場所にあ 「たとえミドリムシが社会 る方を選択していました。 にもたらすメリットが科学 ところが昨年あたりか 的には正しくても、人々に ら違和感を感じ始め、今回 感情的な共感をもって受け の宿泊体験で、その違和感 入れられるためには、それ がはっきりと形になりまし だけの時間が必要だった」 た。Bが貧しくなっていると著書(*)でおっしゃって います。この、「正しいかも 知れないが、受け入れられ ない」ということは、自社の 製品・サービスを見直す際 に、大事にする必要があり ます。のです。具体的には、アメニ ティーの歯ブラシが安っぽ くなり、タオルが3枚あっ たのが2枚に。朝フロント 前に用意されていた朝刊が 廃止。清掃もイマイチで、デ スクの上が埃っぽい。至る ところで「コスト削減」のに 2005年 月、世界で初めてミドリムシの大量培養に成功し、さあこれから、という翌年の1月 日、東 出張で金曜日都内に、土 一方、Aは「これまでやっ 京地検特捜部の強制捜査 曜日大分に泊まりました。 ていたことを削減」はせず、 がライブドアに入ります。 いずれもよく利用するホテ それどころか部屋にスマホ ユーグレナは六本木ヒルズ ルチェーンで都内はA、大 が置いてあり、「滞在中は自削減のにおいに違和感 おいがします。お客さまは 敏感に感じ取ります。 コスト削減は怖いところ があって、ダイエットして効 果があると面白くなって いやー。この本は久しぶりに読む「泥臭い体験物語」 部へと転籍し、栄養問題をです。ページを繰るのが惜し解決しようとします。それ からミドリムシに出会い、 事業として起こし...。いくらいに面白い。 登場人物がみんな魅力的で、ヘタな小説読むより 引き込まれます。著者は学 生時代、グラミン銀行のイ ンターンでバングラデシュを 訪れ、現地の人々が「食べる もの(お米)はあるのに、栄 養が足りてない」状態を目 の当たりにします。これを なんとかしたい、という思い ライブドア事件の渦中に 巻き込まれ、世間の冷たさ、 事業の厳しさを散々味わい ます。その時支えになったの が「、ミドリムシで地球を救 う」という世界観でした。で、文系だった学部を農学 起業家に限らず働くすべ ての人におすすめです。ダイヤモンドダイ社社12 16今週の教訓コスト>お客さまは間違いです阪本啓一■ブランディングコンサルタント。大阪大学 人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し 渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。 06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役社 長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営 の実現に取り組む。「ブランド・ジーン~繁盛をもたら す遺伝子」(日経BP社)などの著書・訳書、講演活動 も多数。www.kei-sakamoto.jp 電子メディア開店!www.orange-media.jp