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Friday, July 28, 2017|Vol. 926|16 BUSINESSM&A(企業買収)の視点から、企業、経済、 金融業界、また社会状況の経済への影響 などについてM&Aの専門家が解説する。M&A から見る企業の話© rudall30/ Shutterstock.com8080後藤里史大和証券グループの資本業務提携先であ るSagent Advisorsにて、主に日本企業が 北 米 企 業 を 買 収 す る 際 の M & A アド バ イ ザ リ ーを担当。大和証券入社後、財務部、留学、 経 営 企 画 部 を 経 て 2 0 0 8 年 より M & A アド バ イザリー業務に従事。東京都出身、慶応大 学商学部卒業、コーネル大学MBA修了。第2回 M&Aの最新動向安に振れている年は、若干 減少することもあります が、日本の上場企業の内部 留保が過去最高水準であ り、今では、多くの企業がM &A用の投資枠を設定し ていますので、今後も日本 企業による北米投資は増 えていくことが考えられま す。とが多いです。例えば、製造 業の場合、日本企業の技術 力は一般的に高いので、買 収によって高い技術を獲得 できることを相手先企業 は期待しています。 一方で大企業に取り込ま れることを恐れる米国企業 もあります。特に今まで自 分たちで経営してきた会 社が大会社の傘下に入った 結果、自由な経営ができな くなることを恐れるわけで す。特に、日本企業の場合、 経営管理が細かい面もあ りますから、自分たちのや り方を押し付け過ぎると 反発を招くケースもある ようです(一方、全て現地任 せにしてしまう事が良いと も言えませんが)。日本企業の買収北米を狙う理由 M&A(企業買収)の近 年の世界的な潮流として は、件数、金額共におおむ ね上昇傾向にあると考え ています。から増えてきています。経 緯としては、日本企業が長 年の不況を経て業績が回 復してきたこと、当時は円 高になって、円ベースでの買 収金額が低くなったことな どがあります。日本企業に おいては、円建てで取締役 会等での意思決定をする ケースが多いため、どうし ても円高である方が、企業 としても、価格的に意思決 定を行いやすく、結果とし て、M&Aが増える印象を 持っています(例えば、1億 ドルの買収金額の案件の場 合、1ドル120円であれ ば、日本円に換算すると1 20億円の案件になるのに 対し、1ドル 円であれ ば、 億円になります)。円買収の目的の違い また、投資ファンドが保 有しているような企業の場 合、利益をかさ上げするた めに、最大限にコスト削減 を行って、設備投資なども 抑制しますので、事業拡大 のチャンスがあるのに、投資 できないと思っている企業 が多いのが実情です。その ような場合は、日本企業の 買収後に、資金的なサポー トを期待する企業も多い ように思います(逆に言う と、買収価格を検討する際 には、そのような設備投資 費用もあらかじめ見積も る必要があります)。 とはいえ、日本企業も経 験を積み、クロスボーダー を含むM&Aのスキルは 確実に向上してきていま す。それに伴い、日本企業が アドバイザーに求めるもの も変わってきているように 思います。 今年になって、中国企業 による北米企業への投資が 大幅に減少しているといっ た一時的な減少傾向にはあ りますが、一方で世界的に 企業が保有しているキャッ シュ残高は高水準で推移し ています。それぞれの年の 景気の好不況による多少の 波はあるものの、基本的に は今後も増えていくでしょ う。 日本企業が北米企業を 買収する理由・背景として は、技術の獲得を目的とし た買収に加え、やはり国内 市場の伸び悩みを背景と して、北米市場でのマーケ 日本企業の北米企業に 対する買収の検討について も、リーマンショック後の2 011年、2012年ごろ 例えば、アジア企業を買収する際には、販路拡大を目的とした買収が多く、ドイツ企業を買収するのは、 米国企業が抱く印象 ッダーの有無、業界の知見ット拡大を企図した買収 が多いように思います。 私たちアドバイザーは、 企業の価値評価や案件の プロジェクト管理ももちろ ん行いますが、それに加え て、売り手の考えや競合ビ技術力の獲得を目的とする製造業のケースが多いと 日本企業に対する印象 いったように、地域によって としてネガティブなもの 特徴があります。その点、 は、多くの米国人・米国企 米国企業の買収は、技術獲 業が意思決定がスローであ 得のケースも、販路拡大の ることを挙げます。これは ケースも両方あるため、さ 良くも悪くも、日本企業の まざまな業種の企業が北 多くが、意思決定をトップ 米企業の買収を検討する ダウンではなく、ボトムア ことができ、件数ベースで ップで行うため、検討に時などの情報提供を期待さ れるケースが増えてきてい ます。今後を展望するにあ たっても、日本企業による 北米企業のM&Aは増え ることはあっても減少する ことはないと思っています。他の国をはるかに上回って間がかかってしまうからで す。特に案件を取り組むか どうかを決める最初の部 分で多くの時間を要する ケースが多いように思いま 当コラムは、筆者の個人 的見解に基づいた意見であ り、セージェントアドバイ ザーズ社の総意の見解では ありません。います。 買収される米国企業側も日本企業に対して、総じ て良い印象を持っているこす。 また英語に苦労している企業が依然として多いのも 事実です。欧米では年間に 数件のM&Aを行う企業 も珍しくありませんが、日 本企業の場合、年間に数件 のクロスボーダーM&Aを 行うことは非常に稀だとい う印象を持っています。そ の要因の一つは、クロスボー ダーM&Aの対応ができ る人材が足りていないとい うことが大きな要因ではな いかと考えています。□ □ □

